KORANIKATARU

子らに語る時々日記

夢と現の縫い目をまたいで

生駒山沿いを北から南へと縦に動く。
太古の昔、このあたりは海岸だった。

山を背に河内湾があったはずの方角に目をやる。
一万年の時を経て、いまは平野となりその上にビルが不均一乱雑に林立している。

霞んだようにみえるのは曇天のせいというより、大気に混ざる大陸由来の不純物と大阪人の溜息のせいであろう。

日暮れ迫る時刻、姿消しつつある光を追うようにクルマを走らせ市内へと戻る。
事務所に寄って帰宅するつもりが立て続けに業務舞い込み、帰るタイミングを逸してしまう。

遅い時間、家で食事の支度してもらうのも申し訳ない。
近くにある回転寿司の暖簾をくぐることにした。

夜も8時を過ぎると家族連れは姿を消し、回転寿司のカウンターは侘びしい空気に包まれる。
まばらに座る客のすべてが一人客だ。

他所様の様子を見るともなし寿司を選んでいく。

ちょうど7皿つまり945円で済ませる一人客がいる。
ぴったり10皿だけ食べ引き上げる一人客もある。
皆が皆つましい。

このような場ではビールをお代わりするのでも贅沢なことのように思えてくる。
仕事をやり終え、あとは電車で座って帰るだけ。
その気楽さがビールの旨味を倍化する。

わたしは自らに言い聞かせる、自分へのご褒美だ。
もう一本お代わりね。
店員に告げる。

腹もほどほどに膨れて店を出る。

通りに和服屋があってウィンドウのなか色とりどりの新作浴衣が陳列されている。
まもなく夏が訪れる。

ふと思い出す。
その昔、ここらあたりは海であった。
太古の景色がそのウィンドウを通じて姿を現しはじめたかのように見える。

ビール三本が玉手箱。
夢まぼろしのなか、千鳥足で軽くステップ踏んで駅へと向かう。

ひととき夢見心地。

まもなく夢と現の縫い目を越えて、海から陸へとまた戻っていく。