業務を終えて夕刻。
秋の香を含んだ風が優しくそよいで心身が芯からほぐれる。
風に吹かれるだけで幸福なのだから、こんなときはバスに揺られている場合ではない。
歩くに限る。
わたしはバス停を素通りし、北に向いて甲子園筋をぶらり歩いた。
もちろん家内のためのバロークスも忘れない。
途中、イカリスーパーに寄って赤白4本を買い求めた。
ちょうど山側から海側へと風が流れる時間帯。
真向かいから吹き込む風が生気を注入してくれるかのようであり、生きて在ることの幸福を文字通り肌で感じることになった。
加虐的でさえあったあの酷暑がようやく終わる。
顔面を歪めて歩いた日々から解放されるのだと思うと、肩の力がほどよく抜けて秋風を愛でずにはいられない。
甲子園筋を歩くのは久しぶりのことだった。
わたしたち家族にとって最も愛着ある通りと言っていいだろう。
甲子園球場を訪れるときはこの道を行き来してきたし、家内と一緒にウォーキングしていたときには定番のコースだった。
それに、子らが上六の塾に通っていたときはこの道を通って送り迎えした。
道の各所に思い出がたんと詰まっている。
秋風が記憶庫の扉を開き、様々な像が眼前に現れた。
それら懐かしい過去を左右に眺めながら、わたしは歩き、歩くそばから現在のシーンもまた色濃く内に取り込まれ深く刻印されていることを実感した。
まもなく家内からメールが届いた。
生姜を買い忘れたので買ってきて。
生姜について考えつつ、人にせよ道にせよ縁の綾というものは実に奥深いものであると、風がささやき告げ知らせてくれているかのように思えた。
2019年8月31日 近所のスーパーにて