朝、実家に寄って父をピックアップした。
ナビの目的地を東大阪市荒本北2-2-4に合わせ出発。
20分ほどで荒本おいだ眼科に到着した。
土曜の午前。
待合室は混み合い来院者が絶えない。
室内の椅子だけでは足りず、入口の前にも臨時で丸椅子が置かれたがそこもすぐに埋まった。
父の名が呼ばれて一緒に診察室に入った。
柔和で温厚、とても優しい人物。
それが種田院長。
そんなイメージを持っていたが診察室に座る院長の雰囲気は普段とは異なっていた。
並々ならぬ気迫みなぎり凄味さえ感じられ、何かが乗り移っている。
そんな風に見えた。
クラーク・ケントがスーパーマンに変身しているようなものと言えば分かりやすいかもしれない。
言葉に勢いがあって確信に満ち説明が端的明快。
キャッチボールで言えばボールが胸にまっすぐバシッと届く。
そんな力強さと頼もしさに溢れていた。
帰途父と話す。
日頃から心技体を研ぎ澄ませているからこそ院長に医の神様のようなものが降臨し並外れた出力が可能になる。
そのジョイントを行うには尋常ではない強靭さが必要で、高速回転する頭脳と疲れ知らずのタフネスと図太い神経を併せ持たねばならないから、普通の人間に真似のできる芸当ではない。
特別な素質と素養を兼ね備えた者にのみ為せる技。
わたしと父の感想は驚嘆という一語に行き着いた。
父を実家に送り届け阪神高速をぶっ飛ばしわたしは家に引き返した。
クルマを置いて駅に向かう。
この日二男の学校で保護者会が行われるため家内はママ友らと市内にあった。
これまでの例に倣えば、家内は帰途、わたしを飲みに誘うはず。
それで足をクルマから電車に変えることにしたのだった。
昼を過ぎ空腹だった。
駅へと向かう道すがら、久々、中華の大貫を訪れた。
ラーメンセットが760円。
破格に安いが量もあって素朴においしく、心落ち着き満たされるようなおいしさでありつまりおいしさの原点を体現するメニューと言えた。
客足は引きも切らず午後1時を過ぎて満員。
そうなるのも当然だった。
もうお幾つなのだろう。
定番の中華を安く美味しく提供し続けて長きに渡る。
厨房で作り続ける大将と給仕を続ける女将に頭が下がるような思いとなった。
腹も膨れて生気回復。
市内で用事を済ませついでにジムで一汗かいて風呂につかった。
夕刻になって家内から連絡が入った。
家でラグビーを観ようということだった。
互い現在地と到着予定時刻のおおよそを知らせ合いつつ家路に就いたが同じ電車に乗り合わせていたと分かったのは駅の改札を抜けてからだった。
駅前のスーパーで合流し買物を済ませテレビへと急いだ。
すでに試合が始まっていて、ニュージーランドに対しイングランドが優勢を保っていた。
それもそのはず。
ニュージーランドの選手はいくらなんでも日本を楽しみ過ぎ遊び過ぎだった。
SNSでされる数々の発信からそれは明らかだった。
ストイックに過ごしたイングランドとは好対照でありだから勝負になる訳がなかった。
試合後、イングランドサポーターがオエイシスのワンダーウォールを高らかに合唱し歌声がスタジアムに響き渡り感動で心震えた。
有史以来ベストと言われる名曲中の名曲である。
彼の国には肩を組んで一緒に熱唱できる歌があるから羨ましい。
皆で熱唱となれば日本でだと「都の西北」か「紺碧の空」その他「六甲おろし」くらいしか思いつかない。
そんな話をしていると家の前にクルマの停まる気配がした。
やがて玄関からただいまという二男の声が聞こえた。
塾の先生に梅田から家までクルマで送ってもらったのだという。
塾の数学の先生が幼稚園から小学校を通じ同級生だった女子の父親。
たまたま当たった先生がそうだった。
最初の授業の際、先生の方が先に気づいて声をかけてくれた。
その元同級生は神戸女学院に通う。
中学受験をした同じ小学校仲間でグループを作っていまも連絡を取り合っている。
そういった貴重な繋がりの中にあることが親として嬉しい。
今度食事に誘われたという。
幼稚園や小学校のときと様変わりした姿を見て元同級生母は大いに驚くに違いない。
そんな会話を交わしながら家内は息子のための肉を焼き始めていた。