帰途、天王寺駅に差し掛かった。
この日の業務はすべて片付けてある。
となると、足は自然、阿倍野正宗屋に吸い寄せられるのだった。
カウンターに座り一人の世界に憩いはじめたとき、長男からメッセージが届いた。
ジムで撮った写真が添えられている。
鍛え上げられたその上半身に見入って見惚れて、グイッとビールをあおる。
青年の上半身をうっとり眺めて酒を飲む中年。
他所様から見れば奇怪な図であるかもしれないが、ここは正宗屋。
誰だって好きな仕方で過ごしていい場所であり、素のままありのままの親バカとなって誰に気兼ねすることもない。
家内に写真を転送し、そこから夫婦で写真の送り合いとなった。
長男もかなりのガタイであるが二男もなかなかのもの。
ふと目に入る肩や背中や胸のフォルムが、THE男。
やはり、実用に供されてこそ男。
その頑丈はいずれ社会の役に立つことだろう。
で、親バカは思うのだった。
もし、頑丈さが入試科目だったなら、英語や数学に負けず劣らず二人揃って軽く偏差値70を越え最大の得点源になったにちがいない。
そしておそらくどの科目よりその突出を親として愛おしいと思ったはずである。
特に家内。
自分のためにお金使うより先、まずは子らにあれこれ食べさせたいと思う母であり、自分がお腹いっぱいにならずとも、子らにはお腹いっぱい食べさせようと考える母である。
その愛情が二人のガタイとなって結実したと言えるのだから、家内がわたし以上に目を細めたとして何の不思議もない。
正宗屋はおいしいものばかり。
ビールをお代わりし、料理を追加し、ふと気づいた。
家族のなか、わたしひとりだけが劣等生。
家内も息子二人もどちらかと言えばストイック。
節制ができ勤勉を継続することができる。
つまり、わたしのなかに息づく悪しき遺伝子たちが良きものに置き換えられたということである。
なるほどこれが有性生殖。
正宗屋のカウンターの一角。
人知を超えた摂理の存在にはたと気づいて、赤ら顔の中年が膝を打った。