午後の面談業務が早くに終わって時間が空いた。
となれば、マッサージ。
すぐに電話し駆けつけた。
前日、かなり長めの書面をこしらえ、その疲労が残存していた。
頭がうすらぼんやりとし、視界にかすみがかかったよう。
カラダの諸機能を早急に復旧させる必要があった。
寝そべって背面だけ頼んで一時間。
手指だけでなく肘、膝なども総動員してもらった。
グリグリに揉んでもらって、心身の曇りが取り払われた。
視界がクリアになってカラダが軽い。
マッサージの効果を実感しつつ南へと向かい夕刻の打ち合わせに臨んだ。
そして夜、業務の最終地点は天王寺となった。
通りかかった本屋でまずは神里達博さんの『リスクの正体(岩波新書)』を買い求めた。
朝日新聞に連載があって必ず息子にも読ませてきたから書籍になれば買うのが当然の選択であった。
で、その足で向かうは阿倍野正宗屋。
やはり正宗屋は外れがない。
定番どころを心ゆくまで楽しんで大満足。
機嫌よく帰途についた。
電車に揺られていると耳にする音楽がAshの『A Life Less Ordinary』となった。
家内と結婚前に観たダニー・ボイル監督の映画『普通じゃない』の主題歌である。
映画を観て気に入って、Ashをよく聴くようになった。
彼らのセカンド・アルバム『Nu-Clear Sounds』が出たのが98年の暮れ。
ほどなくしてわたしたちは結婚した。
99年の夏のことであった。
音楽が号砲となって、わたしの頭の中に当時の思い出がわんさと押し寄せてきた。
新居に置いたiMacのライムの色も目に鮮やか蘇り、一緒になって頭の中を駆け巡った。
99年、それはiMacが彩り豊かに計6色になった年でもあった。
うちのiMacは初期不良で起動せず、Sadマークだけが画面に表示され続け、おまけに住んだ地域が電波障害地区だったからテレビも当初は映らなかった。
そんな地で暮らし、朝、一緒に出勤しひと足早く帰宅した家内が食事を作り、テレビが映らないので食後は近所のビデオ屋を二人で訪れ夜は映画を観て過ごした。
わたしは三十になったばかりで家内は二十代。
若さ以外には何もない。
そんな質素で貧相な日常に思いを馳せていると次第そこはかとない愛情が込み上がってきた。
ありありと頭に浮かぶ当時の情景が消えてなくならないよう、わたしは『A Life Less Ordinary』をリピート再生に設定した。
99年の暮らしが大元で、やがてそこに長男が合流し三人家族となり続いて二男が合流し四人家族となった。
感傷にひたって歩いて間もなく家というところ。
角を曲がると前方に二男の背が見えた。
わたしは二男と同じ電車に乗っていたのだった。
二男に続いて家に到着。
1999年から2020年へとひと跨ぎ。
わたしは家族との現在時刻に無事合流を果たした。