帰途、魚屋たこやに寄った。
カツオとヒラメがオススメだと女将が言うので従った。
家に帰って風呂につかっている間に家内が切り分け薬味を添えて盛り付けた。
ビールで乾杯し、新鮮な刺身を二人で味わった。
まもなく二男が帰宅した。
彼も合流。
一口食べてうまいの一言。
彼は感嘆の声を漏らした。
ヒラメもポン酢でいくというから一人前。
この日、塾の教室に入るとき彼は古文の金本をこれみよがしに携えた。
金本と言えば西大和テキストのなかの名著中の名著。
西大和浪人生の目を引くに違いなく、それが取っ掛かりとなって会話が生まれる。
そう目論んでいたが、一切反応はなかった。
学年によって用いる教材が異なるのかもしれなかった。
この金本には姉妹版として銀本も存在する。
二男が高3になるとき西大和の兄の友人らに強く勧められ、しかし入手にはひと手間かかった。
肝心の長男がうっかり者。
いつか二男が使うなど頭になく大事な名著を処分してしまっていた。
だからママ友を通じ家内が探すことになった。
灯台下暗し。
結局、最も仲の良かった友人らの手元にあって入手が叶った。
金本は京医、銀本は阪医に通う友だちから貰い受けた。
長男のデビュー曲はSUSHI。
そのミュージックビデオが制作されたのは高2のとき。
両サイドを固めた両雄が彼らであった。
当時から今を振り返ってつくづく思う。
子らも高め合うが、母も高め合う。
皆さん見識高くその日常に触れるだけで励みになって勉強になった。
誰もが家内にとってお手本のような存在と言えた。
付き合う人により暮らしの色調が大きく変わる。
世には低め合う仲があり高め合う仲がある。
少し見渡せば、はっきりと分かる。
いい歳をして遊び癖が抜けず、たいした用もないのに徒党を組んで飛び回り、わいわいがやがや遊び菌を各自家に持ち帰って撒き散らす。
そんなグループが実在する。
遊び菌は時間の前後に飛び火して、同居人にも伝染していく。
結果、気が散って仕方ない、落ち着かぬ色合いに家庭が染まって、本来ならば家に蓄積されていくべきエネルギーがケバケバザワザワとした紋様へと成り代わり、無為が好き放題に吹き抜けて家族の力が徐々に底抜けしていくだけの空間が出来上がっていく。
進むか退くかで差は累積的になっていく。
日毎差が開き、開いた分だけまた余計に差が開く。
誰と付き合うかというのはつまり、進むか退くかの選択と同じこと。
後者を選べば、後で後悔することが後を絶たないということになる。