家内の運転で帰途についた。
この日、家内は事務所の用事を手伝って茶屋町あたりを歩いた。
大いに昔を懐かしんだという。
外資系企業で受付のキャリアを積み20代後半、家内はヤンマーの受付として働いていた。
だから茶屋町は庭のようなものだった。
久々、その界隈を歩いて家内は不思議の念に捉えられた。
今も当時を間近に感じるが、あのとき息子二人はまだ存在していなかった。
それがうまく飲み込めず、二人のいない人生などもはや考えられないのだと家内は悟った。
昔から二人は存在した。
そう思う方が家内にとっては自然なことで、だから、会社で日常的に目にしていたヤン坊マー坊が未来から自分を見守ってくれていたのだと思うことに何ら違和感を覚えない。
いま、そのヤン坊—マー坊が実写となって家内の暮らしを彩っている。
アニメやミニチュアであったときよりエピソードに富むから、俄然こちらの方が盛り上がる。
昔話に花が咲き、かつての赤貧をさえ二人で笑い合った。
とにもかくにも頑張った。
二人の息子に励まされるようにして、倦まず弛まず地道に歩んだ。
暮らしのどこを切っても、その断面には真面目マークが見て取れる。
その積み重ねの果て、いまがある。
結婚当初は貧乏で、食生活も質素慎ましいものだった。
焼肉と言えば、家内の実家を訪れそこで本格的な炭火焼肉をご馳走になり、寿司と言えば、せいぜい近所のスシローに行くのが精一杯といった生活レベルだった。
あの頃はろくなものを食べていなかった。
そう言って二人で笑い、寿司の話が出たついで、クルマでジムを通り過ぎ西宮ガーデンズの大起水産に行こうとなるのはごくごく自然な流れと言えた。
やはり人気店。
すでに10組が待っていた。
ざっとみたところ店のキャパは60組。
1組の滞在時間が60分だとすれば、のべ60組が60分で一周する大観覧車のようなものと見て取れる。
つまり、わたしたちの番は10分後ということになる。
予想したとおりに10分後、わたしたちはカウンター席に案内された。
家内があれこれ注文し、二人して引き続き、楽しく昔話をラリーした。
ほんとうによく頑張った。
これからも頑張ろう。
期せずして、互いを慰労しかつ今後について決起を促すような夕飯となった。
たっぷりと食べ、二男のための夜食も忘れず、新婚夫婦みたいに上新電機で白物家電を見物し阪急で食材を買い帰宅した。
昔のことを笑い合える。
春夏秋冬で言えば、いまは収穫の秋に当たるのだろうか。
こんな感じが続けば幸せ。
夫婦揃って暖かな冬を迎えたい。