二男が用事で自室に戻ったので銭湯にはわたしと長男で向かった。
界隈で最もクチコミの良い豊川浴泉は、桜の最盛期を過ぎた神田川を越えてすぐの場所にあった。
若い学生らで中は混み合っていた。
湯舟の端っこに並んでわたしたちは湯に身を横たえた。
思ったとおり学生らは早稲田の新入生であった。
互い風呂につかって自己紹介し合っているから実に早稲田らしい光景に思えた。
長男がぼそりわたしの耳元で言った。
慶應ではこんな雰囲気の光景は見られない。
わたしは一旦休憩のため湯を上がり脱衣場に腰掛けた。
湯煙の向こう、端から内へとポジションを変えた長男を見てわたしは笑った。
さすがのコミュ力。
他の若者より肩幅胸板三割増しといった体躯。
その長男が早稲田の新入生らと談笑し始めていた。
それは慶應生IN早稲田の輪という図であった。
全国各地から集まった彼らは明日入学式を控える様々な学部の学生だった。
近くに学生寮があって皆上京したばかりとのことだった。
明日は二男も連れ一緒にこの湯につかろう。
帰り道、缶ビールを飲みながら長男とそう話し合った。