昼になって実家に寄った。
父が留守だったので先日同様、先に昼食を済ませることにした。
あきら寿司は商店街を抜けた先にある。
ぶらり歩いて暖簾をくぐった。
昔なじみの店である。
ここ数年は母を伴いしばしば一緒に昼を食べてきた。
一人で訪れたのは初めてのことだった。
テーブル席に座り、二人分を同時に頼んだ。
いろいろな思い出があるなか、もっとも鮮明なのは耳に残る記憶だろう。
母の口にした言葉が、ありありと耳元を過ぎていった。
そのたび箸を持つ手が止まり、胸が詰まった。
商店街のたこ焼き屋だってお好み焼き屋だっておばさん方はみな健在だった。
うちの母の方が若くて元気だったのに、なぜこうなってしまったのかまったく意味が分からない。
早めに迎えが来たのは十分に功徳を積んだから。
すべての気苦労から解放されて、いま向こうで安らか微笑みこっちを見ている。
そうに違いないと思うがしかし、いったいなぜと思考は何度も振り出しに戻ってしまう。
寿司を食べ終え、店を後にした。
前日に引き続き、大阪は夏日だった。
今日も暑いなあ。
母なら必ずそう言うであろう言葉が耳に響いた。
空耳であっても母の声。
わたしはじっと耳を澄ませた。
実家をのぞくと、父が戻っていた。
ジムで軽く運動してきたのだという。
自転車が2台あっても仕方がない。
そんな話になって、母の自転車をわたしが引き取り事務所に置くことにした。
親と過ごす時間を増やす。
もともとそう考えての事務所移転であった。
せめて母の自転車を駆って、あちこち出かけようと思う。