息子が一人で設営し、ベランダ焼肉の舞台が整った。
照明、蚊除け、シート、椅子、炭火、食器、飲み物。
すべて整って万全。
なんと楽ちんなことだろう。
彼が受験生だった頃、わたしがその役割を引き受けていた。
思えば結構たいへんな作業だった。
家族三人で団らんの時を過ごし、後片付けでは家内がテキパキと動いた。
その昔、結婚前のこと。
家内の実家に招かれ炭火焼肉を振る舞われた。
食べ終えて後片付けとなったとき、自然な感じで若き家内がせっせと動いた。
その姿がいまも鮮明に記憶に焼き付いている。
くつろいだ時間を切り上げ、さっと腰を上げるのは言うほど簡単ではない。
だからそのときの動きによって、その人物がものぐさかどうかが判別できる。
後片付けや掃除という段に至ったとき、すっと消えるような人がいる。
組む相手としてはハズレ。
そう断じて間違いない。
もっと昔のこと。
時は遠く遡って場所は早稲田大学の構内。
アウトドア系サークルの装備担当として、わたしはテントやらを広げ不備などないかチェックしていた。
広げて畳むのは大した手間ではないが、数が多いと骨が折れる。
わたしが責任者として率先して動き、もちろん共感力の高い早大生であるから手伝う者がほとんどだったが、そんな様子を目にしても、本性もあらわ、無駄話に興じる他大の女子らがいた。
妹がたまたま東京に遊びに来ていてその場にいた。
うちの妹はもちろんわたしを手伝った。
われら母の子。
そういった場面で見て見ぬふりなどできるはずがない。
そんな姿を見てのことか、先輩の一人が妹を見初めることになった。
不首尾に終わったがもし射止めることができていたら、妹が二人とも東京で暮らすということになっただろう。
そのようにしていまも妹は甲斐甲斐しく家内も同様。
そして親の背をみて子は育ち、子らもみな甲斐甲斐しい。
まわりを楽にするのは善行。
だから甲斐甲斐しさは善き人に不可欠の要素と言えるだろう。
ありふれた特質ではあるが案外得難く無視できない。