朝、曇天の空を眺めながらホテルのラウンジで珈琲を飲んだ。
天気予報は昼から雨だと告げていた。
だから、ゆっくりなどしていられなかった。
わたしたちはさっさとホテルを後にして、クルマを松島海岸へと走らせた。
船着き場にたどり着いたとき、ちょうど9時半出港の遊覧船の乗船がはじまるところだった。
二人揃ってウィンドブレーカーを上から羽織って船に乗り込んだ。
デッキに立つとときおり雨滴を感じる程度で、まとまった雨になるのはまだ当分先と感じられた。
風が気持ちよく見晴らしはいい。
が、空は灰色で海は鉛色。
景色は決して冴えたものではなかった。
これではさしもの絶景も形なし。
そう思えた。
しかし終盤、一瞬だけ雲間からおぼろな光が差し込んだ。
その光を受け海面が美しく輝いて、天気が良ければどれだけ美しいのだろうとその様が目に浮かんだ。
調子が悪くてもその片鱗を見せる。
さすが日本三景なのだった。
遊覧船での周遊を終え、船着き場の真ん前にある瑞巌寺を見学してから塩竈へと移動した。
昼は亀喜寿司を予約していた。
昨晩乗ったタクシーの運転手は、すし哲がおいしいと言っていたがGW中に予約はできず次回の宿題とする他なかった。
しかし、亀喜寿司も食べログではすし哲に肉薄し、かなりのレベルにあった。
美味しい寿司ばかり食べるわたしたちである。
だから寿司を食べて感嘆することはあまりない。
が、亀喜寿司は夫婦で一致し感嘆の域にあった。
次回訪れたときは、亀喜寿司とすし哲をはしごすることになるだろう。
食後、塩釜仲卸市場を覗いてその巨大さにびっくりしつつみやげを選び、続いて仙台市街に戻って、づんだ餅の名店村上屋を訪れ家内をクルマで待たせてわたしが並んで、これでおみやげは一揃い購入が果たせた。
仙台駅周辺は大勢の人出で混み合っていたから、旅の最後は青葉山公園で締め括ることにした。
緑豊かな公園であり、今回の東北の旅が緑一色に染められていたから最後を飾るに相応しい場所と言えた。
ゆったりと流れる広瀬川を眼下に見ながら、のんびりと散策する時間を過ごした。
結局、雨は降らずに済んだ。
空港へと続く混み合う道を進んで、レンタカーを返しのべ750kmに及ぶ東北行脚の旅を終えた。
仙台空港では東北との別れの食事に牛タンを選んだ。
それぞれ1.5人前を頼み、もちろんトロロもトッピングした。
びっくりするほど美味しくて夫婦で何度も顔を見合わせた。
いつか武蔵小杉で食べた牛タンはなんだったのだろう。
やはり何であれ本場で食べてからでないと語れない。
伊丹空港に午後9時前に到着し、雨の中、タクシーの列に並んだ。
待つこと20分。
順番がやってきて、運転手が言った。
お待ちになったでしょう。
所属会社もばらばらなだいたい30人くらいのメンバーで連絡を取りながら、兵庫方面への客をさばいているとのことで、待たせる時間を最小にするよう懸命に連携を図っているとのことだった。
そんな協力体制が自然にでき、待たせないとの使命のもと運転手たちが頑張っているのだとはじめて知った。
午後10時。
まだ待っている客がかなりいるようです。
そう言ってタクシーはうちの家の前から伊丹空港へと戻っていった。
お待ちになったでしょう、次の客にそう言葉をかける運転手の姿が目に浮かんだ。