仙台駅周辺はたいへんな混みようだった。
駅前のロータリーにひっきりなしにクルマが入って、その列がはみ出て道が塞がる。
だから信号が青であっても前へと進めない。
赤になるとまた横からじゃんじゃかロータリーにクルマが入ってしばらく同じ状況が続いた。
三度目の青信号の際、居並ぶ車列の後ろに通り抜けるスペースができ、やっとのことわたしたちは駅前のホテル駐車場に辿り着くことができた。
時刻はすでに午後6時20分になっていた。
チェックインは後回しにし、駅前へと急いで取って返しタクシーに乗り込んだ。
中華の松石は繁華街から離れた住宅街といったところに所在した。
クルマで10分ほどで、ちょうどオンタイム。
なんとか開始時刻に間に合った。
やはりわたしたちの店のチョイスは正解だった。
序盤から凝りに凝った料理が提供されて実においしく、食材の由来や調理法などどれも興味深くそんな解説を耳にして楽しくもあった。
料理の質を少しでもあげるため、店主自ら海や山へと分け入って、食材収集に余念がない。
なかには地元農家にわざわざ頼んで特別に栽培してもらっている野菜もあるという。
やはり料理は総合力。
いろいろな話にわたしたちは感心しきりとなった。
研究熱心な店主は先日、京都を訪れベルロオジエで食べて来たとのことであった。
かつて苦楽園に店を構えていた中華の名店である。
そんな話を聞いて家内は言った。
関西なら、奈良の「枸杞(くこ)」にぜひ足を運んでください。
そこも夫婦で切り盛りし、食材へのこだわりが普通ではないから、きっと相通ずるものがあるのではないでしょうか。
中華の名門である飄香(ピャオシャン)が輩出する料理人については店主もウォッチしているようで、当然、「枸杞(くこ)」についても見聞きしているようであった。
若き店主の奥さんがとても甲斐甲斐しく気働きもいいから、それで家内が寿司三心についても話題にあげた。
あそこの奥さんもほんとうにすごい、あれこそ内助の功の鏡と言っていいかもしれません。
あのイケメンの?と店主がすぐに反応したから、料理人の世界は広いようで狭い。
いまはSNSを通じ、突出した存在は皆の知るところになるのだった。
食事を終えて店主とともに記念写真を撮り、二次会の店のおすすめを聞いた。
紹介してもらったバーへとタクシーで向かい、ここも正解。
バーの店主大沼さんがとてもよい方で、店の雰囲気もよく、ワインもとびきりおいしかった。
わたしたちは店でくつろぎ深まりゆく仙台の夜を心から楽しむことができた。
あ、そうそうといった感じで、盛岡冷麺について大沼さんに聞いてみると、盛楼閣がイチオシで他と較べスープのコクが別格とのことだった。
上質のワインを識別する味覚保持者が言うのだから間違いない話だろう。
旅をすれば宿題が残る。
今度盛岡を再訪した際には盛楼閣が外せない。
店を出て商店街を歩いた。
休日を仲間と連れ立って過ごす学生たちの姿が目立って、夜の盛り場は活気にあふれていた。
そんな活気が夜風に運ばれ視界すみずみにまで行きわたり、そんな賑わいとともに仙台の夜の一場面が記憶に深く刻まれた。