金曜の業務を終えて帰宅した。
家内の表情をみると、ジムへと行く気がないのが分かった。
明日の朝、東京に帰る。
そう言ってこの日、二男は河原町へと出かけていった。
66期の京大勢と遊び、夜は一緒にしゃぶしゃぶを食べるのだという。
そして土曜の朝、66期の東京組と一緒に帰京する。
帰省して過ごすメンツのほぼすべてが星光生であり、その輪によってどこにでも居場所がある。
それが親として実に嬉しい。
二男の帰京を前に、さて、わたしたちはどうすればいいのだろう。
無言のうち夫婦で向き合って考え、家内が発案した。
平壌冷麺に行こう。
わたしも即座に同意した。
芦屋ラグビーの練習後など、小さかった息子たちを連れ家族4人でしばしば訪れた。
だから息子たちにとって、平壌冷麺の焼肉は馴染みの味でふるさとの味とさえ言えるだろう。
わたしがハンドルを握り、帰宅ラッシュで混み合う阪神高速を西へと進んだ。
阪神高速は「高速」との記載があるが区分上は高速ではなく有料道路らしい。
だから制限速度が60kmなのだという。
つまらない話だったのだろう。
家内はうんともすんとも言わなかった。
店に着くとちょうどテーブルがひとつ空いたところだった。
わたしはビール、家内はノンアル。
それで乾杯し、まずは自分たちの分を焼いて食べ、いたく感心した。
わたしたちにとっても慣れ親しんだ味であり、数多くおいしい焼肉屋を訪れているが、平壌冷麺がいちばん落ち着けて、味も安心、まさに家庭の味であり家族の味なのだった。
もちろん冷麺が売りの店であるから、ひとしきり肉を食べた後、家内は冷麺を食べ、わたしは通を気取ってピビン麺を食べた。
そしてここからが本番なのだった。
焼肉丼の飯増し肉増しをテイクアウト用に3つ頼み、二男に持って帰らせるため、片っ端から肉を頼んで焼いていった。
二男の喜ぶ顔が思い浮かぶからだろう。
肉を焼く家内の顔は幸せそのものといった様子だった。
夫婦で食事し、同時に息子の分も焼くから一緒に食事するのも同然。
離れて暮らしていても、わたしたちは一体。
ここ平壌冷麺は、わたしたちの有り様を最もくっきりと浮かび上がらせてくれる場所なのだと、今更ながら思い知らされた。
今後わたしたちは、以前にも増して足繁くここに通うことになるだろう。