タクシーで松山文創園区へ向かった。
昔、そこに日本のたばこ工場があったという。
その跡地がいまちょっとしたマーケットになっていた。
小物やお茶など家内は買い物を楽しみ、わたしはその後をついて歩いた。
隣接するショッピングモールも見て回り、賑わう地下街で地元客に混ざって豆花など食べ、名残り惜しさを噛み締めた。
台北を満喫するにはとても二泊三日では足りなかった。
せっかくだから最後はそれなりの高級店で台湾料理を食べよう。
そう意見が一致した。
蟹がちょうど旬だというし、北京ダックを食べずに帰国するなど考えられないことだった。
點水樓という店がホテルの近くにあっておすすめだと聞いた。
ホテルの人に予約してもらい、ラストオーダーが午後2時だというから急いでタクシーで戻った。
5階に案内されて、大きなテーブルを挟んで向き合った。
時刻は午後1時。
時間はたっぷりあった。
これがイチオシだと店員がいう蟹をまずは注文した。
大皿に生の蟹が盛られ、とっぷりと紹興酒につかっていた。
ひとくち食べて驚いた。
びっくりするほど身が甘く、まるで果実を食べるかのごとく、蟹のエキスが口の中にふんわりと広がった。
なんて贅沢な食べ物なのだろう。
そう思いつつ、次々と頬張った。
続いては北京ダックを頼んだ。
これもまた身が柔らかく香ばしく、添えられた数々の具材とみごと調和し、飲み込むのが惜しいと思えるほどだった。
そして北京ダックのお粥が出てきて結構な量であったから、ここでお腹は満腹に達しつつあった。
しかし、旅先。
後悔せぬようラーメンは頼み、しかし炒飯は断念するほかなかった。
海老スープのラーメンを二人で分け、大半をわたしが食べた。
海老そのものの風味が凝縮されて出汁は濃厚だったが、天然風味だからだろう、後味は爽やかなものだった。
家内がデザートを食べ終えるのを待って店を後にし、ホテルが目と鼻の先だったから往来を歩いた。
こんなふとした瞬間、やはり名残惜しさが込み上がるのだった。
ホテルに戻り、スタッフの皆さんがほんとうによくしてくれたのでいちいちお礼を言い、後ろ髪を引かれるような思いでタクシーに乗り込み桃園空港へと向かった。
台北では会う人会う人だれもが心穏やかで人がよく、食べ物もどれもこれもが美味しかった。
また至るところが緑豊かで目に優しく女性も美しく、だからほんとうに過ごして快適で思い出たっぷりの旅行となった。
車窓の向こうを過ぎる台北の街を眺めつつ、いつまでもここが平和で素晴らしい場所でありますようにと願うような気持ちになった。
この旅を通じ、日本人はあまり見かけず、韓国人ばかりが目立った。
空港でもそれは同じで、円安の影響が及んでいるのだろうと思われた。
スムーズに空路を経て、関空に到着したのは午後11時前だった。
そこから荷物を受け取って駐車場でクルマに乗り込み、湾岸線をひた走って、無事家に帰還した。
あれこれ片付けシャワーを浴びて、午前零時、リビングのテーブルで家内と向かい合ってビールで乾杯し、よき旅の余韻にひたった。