家内が料理教室へと出かけたのでわたしは家の掃除に取り掛かった。
快晴とまではいかなかったが、晴れ間の絶えない天気だった。
だから掃除に並行して布団を洗い天日干しにした。
これで夜が来ればふわふわで暖かな寝具に包み込まれ、冬の寝床の居心地が最上のものとなる。
すべての人が少なくない時間を寝床で過ごす。
生きるうえで疎かにできない場所と言えるから、この日のわたしの行いは紛れもなく善行で、だから寝室を整え終えてわたしは手柄でも立てたみたいに「寝室ピカピカ」と家内にメッセージを送った。
そのとき家内は天王寺での料理教室を終え谷町筋を北へと向いて歩いていた。
まもなく大阪星光の前に差し掛かったので、卒業生の母であることを告げて中へと入れてもらった。
懐かしさにひたってあたりを見渡し、え、卒業してもう3年近くが経つのだと家内は気づいてそこに立ち尽くした。
この学校に入りたいと望んで、前を通りかかったときは思い入れたっぷりに校舎を仰ぎ見た。
晴れて合格し6年間をここで過ごすことになった。
そのうちここが居場所であることが当たり前のようになって日常となった。
その日常が過去のものになったということがうまく呑み込めなかった。
息子に伴走し一緒に目指してきた憧れの星光生活はとうの昔に終わってしまい、いまは別のステージへと息子も家内も進んでいるのだった。
改めてそうと気づいて、だから一層深い感慨が胸に生じた。
日常であったときには気がつかなかった。
なんてきれいな校舎で、なんて立派な学校なのだろう。
過ぎ去った日々がだんだんとても誇らしいものに思えてきて、満足感のようなものが込み上がってきた。
夕飯は阪急百貨店で買ってきた豚ロースを具にしてのしゃぶしゃぶだった。
家内はオレンジワインをグラスに注ぎ、わたしはノンアルをコップに注いだ。
鍋の采配を振るいながら大阪星光への思いを家内が述懐しているちょうどそのとき、再配達を夜に指定してあった宅急便が届いた。
28期の松井教授からだった。
この冬もまた最上等の肉を贈ってくださったのだった。
家内は大喜びし、その様子をみてわたしはつくづく思った。
大阪星光に通う日常は終わってしまったが、そこで得られたものは何ひとつ失われることなく、いまもわたしたちをあたたかく包み込んでいる。
大阪星光は不滅なのだった。