刺すような冷気の中を歩いていたからだろう。
暗がりに向ける視線の向こう、うっすらと赤みかかった色調で先日のあたたかな情景が映し出された。
新世界百貨店のサウナは室温60℃強で物足りなかった。
何人もの男性がこりゃダメだとすぐにサウナから出ていった。
わたしたち男三人も雁首揃えてその低温に戸惑っていたが、これはロウリュウではないかと長男が問題解決に向け動き出した。
外に出て水の入った桶を持ち込み、ぬるいサウナストーンにざぶんと一気にぶっかけると、見る間に熱い蒸気が噴き出して室内の温度はぐんぐん上がっていった。
何か間違ったことをしているのでは。
親としてヒヤリとするがそんな不安を蒸気が勢いよく追い散らしていった。
続いて二男も外で水を汲んでサウナストーンに投入した。
二人の体躯を眺めて、なぜか家の近所にあるマンボウトンネルのことが思い出された。
大人だと背を屈めないとくぐれない。
ついこの間、息子たちはそこを普通に駆け抜けていた。
つまりそんな小さな寸法だったのである。
ところがいまは。
体格で彼の国の男子にまったくひけをとらない。
やがて水の投入がサウナにいる他の男たちにも連鎖していった。
頻繁にやり続けると逆効果だと長男が流暢な英語で一同に助言し、次第にサウナの中にロウリュウの秩序が生まれていった。
凍てつく寒さの路上を歩きながら、そんな光景を眺めて思った。
いい時間がいつだってわたしの中に流れている。
つまりわたしというこの現象は、いい時間だらけで構成されているのだった。