KORANIKATARU

子らに語る時々日記

線路は続くよどこまでも

このままだと5時に間に合いそうにない。

それでわたしは天満橋駅にて電車を降り、雨脚の強まる往来にてタクシーを探した。

 

何台か空振りしたあと、空車との表示のタクシーを交差点で見つけ、わたしは傘もささずに駆け寄った。

 

ああ、やれやれと人心地ついたところで家内から電話が入った。

家内は電車を使い、城北公園通駅に16:41に到着予定とのことだった。

 

駅へと向かってください。

わたしは運転手に頼んだ。

 

まもなくタクシーが改札の真ん前に停車して、家内が小走りで駆け込んできた。

 

やきもきしたが無事、定刻5時の5分前、しゃぶしゃぶ「やすだ」に到着することができた。

この日は一日一組限定の「すき焼きコース」を予約していた。

 

単なるすき焼きとは大違い。

5年連続でビブグルマンに選定された名店の大将、御年77歳がみずから1枚1枚肉を焼いてくれるのであるから、礼を失することなどあってはならない話だった。

 

来る日も来る日も仕込みから調理に明け暮れる大将の日常と料理人としての歴史が語られ、そして、手は休むことなく肉を世話して絶妙の焼き加減でサーロインが供される。

 

揺るぎない仕事魂を食するようなものであるから、単においしいといった話とは次元を異にした。

 

すき焼きを味わいそれでお腹は膨れたが、感銘の余韻が引き続いて名残り惜しいから、赤ワインを頼んで、牛肉のタタキとロースカツを追加した。

 

姿形を変えても一級品のサーロインの本質は不変であり、なんだっておいしい。

一口一口味わって、大将が健在である限りこの店に通い続けよう、わたしたちはそう心に決めた。

 

来月の席を予約してから店を後にし、引き続き雨降る往来にてタクシーをつかまえ南森町まで戻った。

 

前回はこのままラーメンを食べたのであるから、肉のおいしさで頭がどうかしていたに違いなかった。

今回はうどんが締めであったから、ラーメンが脳裏に浮かぶ余地はどこにもなく、わたしたちはまっすぐ家路に就いた。

 

おいしいものを食べて電車に揺られる夫婦が二人。

ずっとどこまでも、こんな幸せが続いてゆく。

2024年2月29日夜 都島毛馬町 しゃぶしゃぶ やすだ