待ち合わせの時間は午後8時半。
業務が前倒しで終了し、少し早めに着いたので、わたしは店の前で待った。
まもなく家内が現れた。
ジムからの帰りと見えて、めちゃくちゃカジュアルな格好であったから北新地という空間のなか浮きに浮いて見えた。
それもご愛嬌。
多少なり仕事が多難であったとしても、女房がいるから救われる。
やあ、とわたしは女房に手を振った。
先日博多を訪れた際、寿司屋の職人さんが言っていた。
大阪なら実紀という寿司屋が凄いですよ。
それで家内が予約を試み、この日になってようやくわたしたちの番が巡って来たのだった。
定刻、店内へと招き入れられ、ほっと安堵するような気持ちになった。
大将は人懐っこいような人柄で、北新地にあってまるで弁天町あたりにいるかのよう。
高級店といった肩肘張った感はなく店はカジュアルな雰囲気に溢れていた。
大将が言うには、物心ついたときから寿司職人を目指したのだという。
味付けの細部にわたって創意に富んだ工夫が施され、用いられるものは食器も含めてすべてが超一級品だった。
そりゃ寿司も本望だろう。
つまり、寿司の方から天賦の才を見出して、幼い彼の魂の中に入り込んだとみて間違いない。
おいしくかつ楽しく、夫婦でほんとうにいい時間を過ごすことができた。
小雨がぱらついていたのでクルマを拾って家路に就いて、素晴らしい時間の余韻にひたり、家でお茶を飲む二次会は午前零時を過ぎても引き続いた。
いやはや女房がいるから救われる。