週末にかけて暖かく、空気はふっくらと丸みを帯びて春の到来を告げていた。
それが一変。
雨が過ぎ去って寒気が流れ込み、月曜の朝、空気は冷たく尖って肌を突き刺した。
京都での大一番に向け張り切って前泊していた。
にもかかわらず体調が芳しくなく、前夜から悪寒と寝汗に苛まれ、たいへん苦しい朝の出だしとなった。
女房を起こさぬよう静かに、気力を振り絞って起き上がりスーツに着替え何も食べずにホテルをあとにした。
横になっているとネガティブな考えも頭をよぎるが、動けばガッツが湧き出してくる。
だから早めに現地に身を置いて、身中に巣食う寒気を振り払うようにして寒風吹きすさぶ底冷えの街を歩きまわり自らを鼓舞した。
リングにあがる準備としてはそれで十分だった。
あとはこれまでの年季が物申す。
思ったとおり不調などどこ吹く風、笑顔で明るく賑やかに話し営業上の大きなステップを踏み出すことができた。
まるで真冬の乾布摩擦のようなこうしたノウハウもまた息子へと残す貴重な情報のひとつになっていく。
いつか息子に託す。
そう思って以降、仕事への意欲は倍増しになった。
すべてが伝達する情報となるから細部にも意識的になり、そして営業にも積極的になった。
息子であればまず間違いなく、わたしがする仕事をより上手によりクオリティ高くこなすことができる。
そんな人物があとに控えていればお客さんにとっても心強いことこのうえないだろう。
だからその日がくることを想定し、いまから仮想のタッグを組んでわたしは動いているのだった。
無事に業務を終え、ホテルへと戻り家内の運転で街へ出た。
家内の買い物を終え、昼食の店へと向かうためクルマを停めた。
そこでたまたま電話がかかってきて、今度訪れるスペインについて旅行会社の担当と家内が突っ込んだやりとりを交わし飛行機の席やら宿の詳細が決まっていった。
で、クルマを降りると、なんと真ん前がVINO VINOというスペインワインの専門店であったから、これもなにかの思し召し、迷わず入店しそこでワインを2本選んだ。
蕎麦懐石で軽めに昼を済ませてから帰途についた。
途中、吹田インターで降り岸辺にある長谷クリニックへと立ち寄り、豊中インターから高速に乗り直した。
その道中、家内とわたしはしみじみと回想にふけった。
かつて駆け出しだった頃のこと。
しばしば家内に運転してもらって新しい客先を訪れた。
ささやかな仕事ばかりであったが若い夫婦はそれを喜び、よき未来を夢見てほんとうにあちこち一緒に走り回った。
そうそういつも一緒。
わたしと家内のタッグはかれこれ25年もの時を刻んで来たのだった。