KORANIKATARU

子らに語る時々日記

家を出たときからずっと二人

初日はホテルの近くで夕飯をとることにした。

Googleマップで調べると人気の地中海料理の店があると分かった。

 

念のため予約の電話を入れてから出かけた。

 

サンツ駅は高速鉄道も停車する巨大な駅だが、周辺へと一歩踏み込むとそこには下町風情の街が広がっていた。

 

薄暮の街路を夫婦で歩き、ここは新大阪駅近くの西中島や東三国みたいなものなのだろうと話し合った。

 

店は昔情緒にあふれ、古き良き町の食堂といった趣きだった。

蝶ネクタイをするスタッフのなか、ボスと思しき人が接遇してくれた。

 

おすすめを聞き、その助言に従いイカの炒め物とチキンとビーフを頼んだ。

 

料理は本格的だった。

何もかも美味しく、特にステーキは日本のようなふんわり感の対極にあってそれが肉本来の味を呈し、頬張るごとに野生の血が掻き立てられるような喜びを伴った。

 

ワインももちろん味わい深く、おかわりするとグラスになみなみとついでくれた。

 

夫婦で二回目の乾杯をし、見知らぬ異郷にて二人で向き合う不思議にふと捉えられた。

 

家を出て関空へと向かう道からずっと二人で、飛行機も食事も列車も宿においてもずっと二人でそばにいて過ごしている。

 

これはかなり稀有なことではないだろうか。

 

誰であれ自然な距離が必要で、ずっと一緒にいれば必ず軋轢が生じる。

だからしばしば新婚旅行で百年の恋が一気に冷め、それどころかそこで惹起された憎しみが百年継続することになる。

 

それなのに、わたしたちにおいては二人でいてそれがごくごく自然で、長時間に及んでもまったく不快を感じない。

 

周囲に話せばこれは目を丸くして驚かれるようなことであるだろう。

 

次の日から忙しい。

怒涛のスケジュールに備え長居はせず、すっかり暗くなった道を夫婦並んで歩いて引き返し部屋へと戻った。

2024年4月30日夜 サンツ Asador El Bierzo