KORANIKATARU

子らに語る時々日記

大阪がダメでも神戸があるし京都がある。


月曜日の朝、JR神戸線に洛南の中学生と星光の中学生が乗り合わせた。

大阪都構想が幻に終わった。
そのような話題となった。
残念だったが、おれたちは兵庫県民。
大阪がダメでも神戸がある。

今日もがんばろう。
手を振って別れた。


まもなく夏。
大阪の西成あいりん地区には、揮発した尿の臭いが風に乗って漂う季節が訪れる。

かつて毎月あいりん労働センターを仕事で訪れていたことがあった。
訪れる前には、必ずどこかでトイレを済ませた。
万一にもそこのトイレを使う気にはとてもなれなかった。

たいていは隣接する駐車場までクルマで向かったが、時折は電車を使うことがあった。
駅から目的地まで数百メートルにすぎないが、異臭が漂い、毎回、見慣れぬ光景に身が固まった。

鉄格子で守られたあいりん労働センター前には、打ちっぱなしのコンクリートが広がっている。
その暗く湿った空間に、今日の仕事にあぶれた無数の日雇労務者が置物のようにうずくまって座っている。

ハトが吐瀉物をつつき、身を捩ってそのような場所を避けながら歩き、不審者でないことの視認を受けて、施錠外してもらう。

何か悪い夢でも見ていたのかと思うような記憶である。
それがいまだ意識下に沈殿している。


西成を官庁街にする。
橋下徹はそうぶち上げた。

西成に真正面向き合い、そこに切り込んで対策講じようとした人物は、これまで存在しなかった。

西成あいりん地区は、不可視の力学が蠢く大阪のアンタッチャブルであり、これまで誰も手出しなどできるエリアではなかった。
大阪没落のリアルを最もビビッドに感じさせる地域であったが、誰もが見て見ぬふりをしてきた。

西成が官庁街になる。
一筋縄で行くはずがない。
一進一退余儀なくされる困難な局面の連続であろう。

しかし、このままではこのまま。
誰かが腰を上げ、少しずつでも、試行錯誤を経てでも踏み出す必要があった。

もはや悠長に構えてなどいられないほど事態は差し迫りつつある。
大阪を見渡せば、他地域にもその色合いが滲み始めている。

深夜の商店街では無宿者が寝起きし、路上に積まれたゴミは昼をとうに過ぎても回収されず真夏には生暖かな蒸気とともに異臭を放ち街を黄褐色に染める。

誰がどう見ても、もう待ったなし、であった。

ところが、大阪を少しでもましなものにしようという改革のステップは、さあいよいよこれからという第一ステップで頓挫した。
ステップ踏みつつ射程に入るその先の先も話も含め、すべて夢幻に終わった。

元の木阿弥。
改善しかけた後が急所となるのが世の習い。
ゆっくりと逆行し物事はもっと悪くなる。


橋下徹が府知事になって、府庁職員の対応が見違えるほど柔らかいものとなった。
市長になってからは、市役所職員の対応もビックリするほど丁寧になった。

以前はそうではなかった。
窓口で横柄かつ居丈高な輩に当たることが少なくなかった。
不快で屈辱的な思いをすること度々であった。

それが様変わりした。
橋下徹の「統治」は、そのように隅々まで行き届いていた。

今回、橋下徹が市長を退くことで、役所連中はやんや喝采大喜びのはずである。
睨み利かせてくる目の上のコブが取れるとなれば、どれほど晴れ晴れすることであろう。

そして、再びあの行儀の悪い行政が息吹き返し、好き放題、我が物顔で振る舞うようになるのであろうか。

憂鬱なことである。


結果は出た。

未来を担う活力が流出し続け、かつて栄えた産業の地は空洞化していく。
誰からも見向きされず、売り相場であり続ける斜陽の大阪を、この体たらくに為す術ない市議団らが大同団結し「守り切った」。

犯罪統計において数々のタイトルをほしいままにし、さびれガラが悪くなる一方の大阪は、静かにスラムと化していくかに見える。

もはや、他力本願しかない。
世襲議員だらけの市議団らが導いて大阪市民はそう腹を決め世界に向けアナウンスした。
大阪は変わらない。さあ、私たちを助け続けろ。

今回の住民投票の結果は、そのような大阪の開き直りのようにも思える。

大阪全体が、巨大なあいりん地区となっていく。
そのように大阪は舵をとった。
船長は、見当たらない。


しかし、まだ一縷希望は残る。
関西には、神戸があるし、京都がある。
何も大阪が関西の中心であり続ける必然はない。

大阪に目が集まってブラインドサイドとなっていた左右のエリア、つまり神戸、京都から大きな潮目が発生し大阪を巻き込んで、東京に並び立つ「西の首都」が創出される、今回の結果で実現は遥か遠のき現時点ではありえない話にしか思えないが、先々考えれば決して可能性はゼロではないだろう。

夢物語であるにせよ、それは東京にとってだけでなく、日本全体にとっていいことであるに違いない。

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