1
仕事終えての風呂あがり、メールを見ると待ち合わせは三宮。
サウナでさっぱり、準備万端。
西九条は大福湯を後にしJRを使って神戸へと向かう。
カラダがポカポカ、春の陽気と相俟って少し汗ばむ。
電車を幾本かやり過ごしホームで風に吹かれて火照りを冷ます。
JR大阪駅で乗り換え20分ほどで三宮。
改札を出る寸前、待ち合わせ場所は正確には元町だとメールが寄せられる。
それを先に言うべきであろうと思いつつホームへと引き返し普通電車を乗り継ぎ一駅進む。
元町店は駅を降りてすぐの場所にある。
待ち人の姿は見えない。
どうやらわたしが先着。
列に並ぶ。
2
この日、二男の学期末試験が終わった。
試験が終われば、餃子が食べたい。
そう二男が言ったのだという。
だから神戸。
神戸といえば餃子のメッカ。
味噌ダレで食す餃子は一度味を覚えてしまうと病み付きになる。
餃子といえばまずは元町の老舗、50有余年の歴史を誇る瓢たんを外せない。
席は8つしかなく、金曜の夜ともなれば空席あるはずもなく立って並ぶのが当たり前ということになる。
やがてわたしの家族が現れた。
先客の背と壁の間をすり抜けるようにして奥の丸椅子へと進む。
餃子五人前、それとビールねと注文する。
アサヒスーパードライで乾杯し、肩寄せ合って餃子を分け合う。
餃子とビールは切っても切れない。
すぐさま二本目を注文することになる。
3
二男が言う。
めちゃ美味い。
そりゃそうである。
全国餃子選手権があれば優勝候補の一角だ。
美味くて当然。
火曜から金曜まで、週末を挟むことのない今回の試験スケジュールは苛烈であった。
一日に三科目の試験準備をせねばならず時間に猶予はない。
それにまた内容もめちゃくちゃ高度だ。
ちらと中身を覗いて驚いた。
中学生の範囲であっても配布されるプリントやそのエッセンスは高校級。
しかし考えればそれもそのはずで、そもそも中学生に課す文科省指定の内容自体が易しすぎる。
三年も時間をかけるほどの対象ではなく、取り組むなら高校過程を射程に含めた方が歯ごたえあって効率もいい。
子供にとっては傍迷惑な話かもしれないが、大人は先々まで考え、苦かろうがどうであろうがどうせなら良薬を処方しようとするものなのだ。
長じて後、母校の親心について深く理解できるときがくるだろう。
だから最終日、終礼が終わった段階で生徒たちは歓喜した。
来週の木曜まで試験休みで、しかもその後はスキー合宿が続く。
苦あれば楽あり、このメリハリがたまらない。
長男の学校ではスキー合宿は中一の際に一回あるだけだが、二男の学校では中一、中二と二回行われる。
スキーの腕前については二男が先んじることになるだろう。
4
キャプテンに率いられ高架下商店街へと向かう。
引き続き二軒目。
これまた名店、淡水軒の引き戸を開ける。
ここも8席、座席スペースは果てしなく狭い。
狭さと旨さが比例する、餃子の世界の定説だ。
スズメが電線に留まるみたいに三人で肩寄せ合って座り注文する。
焼餃子五人前、水餃子一人前、それと豚肉タレヅケ。
紹興酒のロックとサッポロ黒ラベル。
焼餃子の焼き加減が絶妙、水餃子は日本一。
豚肉タレヅケで家族6つのほっぺはもののみごとに陥落した。
まるで旅先で屋台をハシゴするかのようであって楽しく、キャプテンの趣向に感心させられる。
もしキャプテンが男だったらデートが楽しく女子にモテまくりであっただろう。
5
腹ごなしに中華街を練り歩く。
老祥記を指差し豚饅はここが一番、焼豚なら和記とキャプテンが二男に教え込んでいる。
二男は物珍しそうだ。
意外であったが、神戸を訪れたのは物心ついてからはじめてのことだという。
神戸と言えばうちから目と鼻の先。
何度も訪れていたように思っていたが、人間の記憶など本当にあてにならない。
週末はカブスカウトや芦屋ラグビー、そして塾。
家族団欒で過ごす近場の週末と彼は無縁であったのだ。
今度は大阪ではなく神戸で友達と遊ぶ。
二男はそう言った。
6
そして、締めは正統派名店の一貫楼。
よだれ鶏をサイドディッシュに二男はそこでラーメンを食べる。
私とキャップはあくまで餃子。
生ビールと紹興酒で乾杯する。
お腹いっぱい、楽しい夜となった。
夜風に吹かれつつ連れ立って三宮まで散策し、JRで帰途についた。
明日は二男の友達が我が家に遊びに来るという。
昼は名店たけふくのカツ丼と決まっているらしい。
であれば絶対に玉子をトッピングするよう友達に言わねばならない。
隣に座る二男にそう助言しつつ長男のことが頭に浮かぶ。
現地の友達らと分けるようにと彼に送った第三弾の荷も無事に届いたようである。
UFOをはじめとするカップ麺を箱いっぱい27個詰めた。
皆に行き渡ることだろう。
週末彼はトロントへ遊びに行くということだ。
こちらはこちらで日曜日、家族三人近場で過ごすことにする。