いつのことだったろうか。
「あいつは男じゃない」
長男はそう言った。
ある人物を評しての言葉であったが、その人物のことを考えるだけで五感全てに不快が募るといった様子で、その表情は嫌悪と軽蔑に満ちていた。
実際、彼はそのような人物とは目も合わさないし口も利かない。
一線を引いて相手にすることがない。
成長の過程で様々な人間の強さや思いやりや優しさ、情やその懐に触れてきた。
誰が教える訳でもなく、人を見る目はひとりでに養われていく。
彼のなか「男らしい」かどうかは、真善美といった普遍的な価値と同じようなレベルで絶対的なものとなっていったようだった。
昨日の夜の9時過ぎ。
勉学を終え帰宅した二男はひとっ走りしてくると言って前の公園を疾駆した。
その後で迎えた団欒の時間。
ある人物のことが話題に上がった。
二男は決然と言った。
「あの人は女々しい」
彼も長男と同じ。
なるほど、男らしくあろうとする男は例外なく女々しい男が大嫌いなのだ。
家内がわたしを指差し二男に水を向けた。
二男は明確に答えた。
「男らしい」。
わたしはどうやら「男らしい」。
息子にそう言われ、誇らしいような思いが静か胸に満ちる夜となった。