ちょうどお昼の時間にあわせ顧客先を訪れた。
目当ては讃州。
あびこ観音寺近くにある蕎麦屋である。
ここの天ざるがやたらと美味しく、前回同様、事業主を促しここで昼を食べる魂胆なのだった。
事業所であらかた用事を済ませ、では昼にしようと誘われた。
思惑通り。
目を輝かせ舌舐めずりし事業主の後をついて歩いて、約5分。
しかしあにはからんや、わたしはシャッターの降りた讃州をこの目にすることになっただけであった。
木曜定休とのプレートが非情に映ってしばし凝視した。
それで方針転換。
すぐ近くにある王将に連れられた。
向き合って座ってわたしは軽微なものを頼もうとするが、事業主が気を利かせ、メニューのなか最も値の張る観音定食を注文した。
出てきて驚いた。
餃子二人前、海老の天ぷら四尾、皿に山盛りのチンジャオロース、スープにライス、そして杏仁豆腐。
野獣の胃袋を満たす嵩と言え、とても一般人が手出しするような分量ではなかった。
注文した張本人である事業主ご自身は即座完食をあきらめチンジャオロースと餃子一人前を持ち帰ると箸をつける前に店員に告げた。
さて、わたしはどうするのか。
好意に応えたい、そう思ったので全部を食べることにした。
千里の道も一歩からという通り、雑談を交えつつも絶え間なく箸を運んで口を動かした。
半端な量ではないが、やってやれないことはない。
順調に食べ進みつつわたしはそう確信した。
食べるごと達成感の素のようなものが積み上がっていき、わたしのピッチは加速していった。
讃州の天ざるを食べることも喜びであるが、いま感じる手応えのようなものも同じく喜びであることに変わりなかった。
朝起きた時、このような昼食をとるなど想像すらしなかった。
世は意外なことに溢れ、何事も蓋を開けてみるまで分からない。
未知の魅力が食を通じて身に沁みた。
事業主は満面の笑み。
挨拶して別れるとき、わたしの胸は満足感で一杯で腹は満腹感で一杯だった。
そして、満腹感はさっさと消えても満足感はなかなか消えない。
ここに人生の醍醐味がある。