焼肉でも食べに行こう。
父が電話でそう言ったので、吹田からの帰途、行き先を事務所から実家に変えた。
先日までの寒さが影を潜め、日が長くなり夕刻でも明るい。
この明度が春の到来を明瞭に告げていた。
途中、電話がまた鳴った。
このご時世だからやはり家で食べよう、とのことであった。
役割分担し、父が寿司、私が酒を選ぶことにした。
実家の冷蔵庫には発泡酒しかない。
たまに飲むのにそれはない。
日本酒と合わせ、わたしはビールもどっさり買い込んだ。
実家にて男二人。
パックの寿司を分け、酒を飲む。
まるで学生が下宿でするような飲み方である。
だから、男二人に似つかわしい。
この際、聞いておくべきことを一切合切聞いておく。
まだまだ先の話だが、もしそうなったら、といった話についても遠慮しない。
先延ばしにすれば、その機会が永遠に失われてしまいかねない。
そうと知るから、遠慮の差し挟まる余地はどこにもなかった。
小さい頃を含めずいぶんと長い期間にわたって寡黙な父との「間」が苦痛だった。
会話がないから、たまに家族で外食してもめいめいが黙って食事をかきこんで、皆の気持ちは同じ。
その場から早く解放されたいと願ったものであった。
この歳になって父子二人。
ようやく何でも話せるようになったと思う。