ジムからの帰り道、ガーデンズに寄った。
今夜飲むためのノンアルを買い、家内のためにはちょっといい感じのワインを買った。
さあ帰ろうと駐輪場に向かうが、自転車が見当たらない。
停める場所はいつも同じ。
駐輪場に入ってすぐ、右手の場所に決まって停める。
そもそも自転車を降りた段階で、わたしの右側に自転車が来るからその流れでカラダは必ず右を向く。
だから右手側以外に停めようがない。
しかし、何度そのあたりを行き来しても見つからない。
それでもしやと思い、左側に目をやった。
え、なんで。
左側に自転車が停めてあり、わたしには思い当たる節が全くない。
広大な駐輪場である。
カラダをわざわざ反転させて左側に停めるといったことなど起こり難く、わざわざその一台をどこかの誰かが右から左へ移動させるなどもっともっと起こり難い。
五十を過ぎてそろそろ来たのかもしれない。
そんな気味悪さを覚えつつ夜の街を抜け、家へと戻った。
自転車を降り門を開け中に入る。
普段なら自転車を停め、先に前カゴの荷物を取ってから門を閉める。
なのにこの日に限って、わたしは荷物を取るより先に自転車を離れ門を閉めた。
門を閉めると同時に自転車はバランスを崩して倒れ、ボトルの割れる音が鳴り響いた。
その音を聞きつけ家内が玄関先にやってきた。
あららと呆れた表情で赤く染まっていくアプローチにホースで水をまき、わたしは無残な姿と成り果てた二千円の破片を拾い集めた。
片付けを終え、ノンアルを片手に夕飯を食べつつ思う。
ちょっと今夜は何かが変である。
わたしのなかの無意識が非言語的に何か警句を発しているのか、もしくは自転車の主であるおかんが何かわたしに注意を促しているのか。
「あんた、気をつけや」
おかんがそう言ってると思えば、そうとしか思えない。
それでわたしは家内に言ったのだった。
ちょっと気をつけたほうがいい。
それはこっちのセリフと家内は笑うが、いやいや笑い事ではないだろう。
些細なことの裏で何か不吉なことが進行しているのかもしれない。
用心するに越したことはなく、食い止めるには神仏に頼るほかない。
明日は神社に行って手を合わせよう。
わたしは家内にそう言った。
一寸先は闇のこの世界、無信心で過ごせる訳がないのだった。