御影へはわたしが先に到着した。
約束の時間は午後6時だったが、大幅に遅れると家内から連絡が入ったのでそこらを一人でぶらついた。
ちょうど日暮れ時、山から風が吹き始め瀟洒な住宅街の空気が映えに映え、とても住み良い場所なのだと肌で感じた。
関西有数の文教地区であるから、そこら中に塾があった。
学校を終えた中高生が自転車に乗って各自の教室へと集まり始めていた。
そんな様子を目にして、自分がこれから勉強することを想像してみた。
土台無理。
長く自営業の自由を味わってきた。
夜のこんな過ごしよい時間を召し上げられるなど、耐え難い話であった。
御影と言えば富裕層が暮らす関西屈指の住宅街である。
が、他の飲食店がガラ空きな一方、餃子の王将だけは大繁盛で店外まで順番待ちの客が溢れていて、多少なりとも違和感を覚えた。
もしかして、御影の餃子は一味違うのだろうか。
そんなことを思いつつぶらついて、御影クラッセの本屋で書棚を眺めて歩き、本を読み通す時間も体力も失われてしまっていることに気がついた。
昔はどっさり買って結構読んだ。
いまは亀の歩み。
まもなく駅に着く。
メッセージが届いたので駅の改札で家内を迎えた。
そこから徒歩1分。
家内が予約した焼鳥屋のカウンターに横並びで座った。
今日はヨガの後、大阪でエステを受けてきたという。
施術者がTWICEのサナみたいで顔が小さく長身でめちゃくちゃ可愛くめちゃくちゃ上手かった。
特に内股への施しは格別だった。
それで気に入って長話になって、遅れたとのことだった。
遅れようがどうであろうが今日も元気はつらつであればそれでよし。
「サナ」に感謝しつつ、わたしは自分が通うマッサージ屋のおばちゃんらの顔を思い浮かべた。
サナ、など一人もいなかった。
さすが御影、客層が違った。
品のいい、それなりの年格好の客で席は占められていた。
隣のおじさんらが母校であるのだろう甲南について話す合間合間、早慶について語りだし、いまはダブル合格しても早稲田が選ばれるといった話をしていた。
サンプル数は少ないが、そう言えばそう。
西大和31期では東大に落ちて慶應を選択するケースがほとんどで、2年後、大阪星光66期では逆に早稲田選択が大半だった。
親からすればどっちもどっちでどっちでもいいといった話であるが、まあちょっとした綾で動向が変わるのだろう。
締めの親子丼とラーメンがことのほか美味しく、強く印象に残った。
店を出たところで空車のタクシーが通りかかったので、それに乗って住吉まで移動した。
名店レイユームンが移転したと家内が言うから跡地を見に行くと、そこには別の中華料理屋が店を構えていた。
せっかくだから記念にと、そこで二次会とすることにした。
このところ久しく中華料理を食べていない。
レイユームンにひさびさ行こう。
そう話し合い、ネットでその近況などを探りながら電車で帰途に就いた。
このところよく家内と旅行に出かける。
が、灯台下暗し。
こうして近場をぶらり散策するのも実に楽しい。
行き先は山ほどもある。
今後は長短織り交ぜ、夫婦のぶらり散策をより充実したものにしていこうと思う。