家内を起こさぬよう、朝、ホテルのロビーにて業務をこなした。
まもなく家内も始動し、昼の予約に合わせ地下鉄で表参道へと向かった。
さっさと食事を終え、そこからまた地下鉄で外苑前へと移動した。
試合開始より30分以上早くに着いたがすでに神宮球場は満杯に近かった。
暑くもなく寒くもない。
秋の晴天のもとバックネット裏は日陰になっていて、よい季節の空気感を存分に味わえた。
そんな中、夫婦で肩を並べて広々とした空間に目をやった。
次第、その空気感に同化してゆくような、風通しの実にいい、いろいろなものが換気されていくといった心地よさを感じた。
投手戦が続き試合にほとんど動きがなかったからやがてわたしたちは野球そのものではなく三塁側の慶應と一塁側の早稲田の応援合戦に交互に目を注いで、そっちの動きを楽しんだ。
見せ場は9回になってやってきた。
慶應が連打で早稲田を逆転し、球場が大いに沸いた。
わたしたちは夫婦で肩を組み、「陸の王者 慶應〜」と若き血を高らかに合唱した。
そして一点差で慶應を追う早稲田がその裏に一気呵成に慶應を攻め、広々とした空間に打球が鋭く放たれるたび歓声が沸き、わたしたちは「覇者 覇者 早稲田〜」と夫婦でこれまた肩を組み紺碧の空を熱く歌った。
結局、一つのアウトも取られることなく早稲田が押し返してサヨナラで勝利を収めた。
試合後、まず先に勝者側から都の西北が歌われ、サイド変わってその後に塾歌が続いた。
そして両校とも最後にはそれぞれフレーフレー慶應、フレーフレー早稲田と相手側にエールを送り、そのやりとりはやはり感動的なものだった。
夜は二男と待ち合わせをしていた。
観戦後、ホテルに戻って二男のための食料をどっさり携え今度は神楽坂へと足を向けた。
目的地へと歩く途中、家内は何度も足を止めた。
寿司屋があれば二男のためにぎりを注文し、惣菜屋があれば各種おかずを選び、和菓子屋があればそこで幾種類も見繕った。
そのようにしてわたしが運ぶ食料はどんどん膨れ上がっていった。