今回のホテル選定は大正解だった。
交通至便でかつ快適。
加えて、真下にカジュアルな飲食店が軒を連ね、どこで食べようかとぶらつくだけで楽しかった。
初日の昼過ぎ、わたしたちはもんじゃ焼き屋と寿司屋をはしごした。
夜は新宿へと赴いた。
その昔、有楽町のヤウメイで家内が一人で食事しているとき、いろいろと話しかけてくれる外国人店員がいて家内は友だちになった。
その子が六本木のバーを経てこのたびキンプトンのバーテンダーとして抜擢された。
それでわたしたちは彼女の新天地を訪れることにしたのだった。
いい席へと案内されて優雅な夜を満喫し、記念写真を撮影し、ではまた今度と別れを告げた。
帰途、ホテルの近くになか卯があることにわたしは気がついた。
昔は連日早朝から仕事を開始し、以前の事務所のすぐ近くになか卯があったから、そこでよく朝食を済ませた。
当時が懐かしく、だから家内がまだ寝静まる早朝、わたしはひとりなか卯へと出かけたのだった。
どこで食べてもなか卯はなか卯。
わたしは一口一口噛み締めて、昔日を偲んだ。
二日目は神宮で野球観戦する予定だったから、昼は球場近くの店で食べた。
そして、野球を見終えた後、二男と待ち合わせる焼肉屋へと向かった。
店は今回が二回目の訪問であったが、やはりかなり美味しく、わたしたちは結構な量の肉をどんどこ食べることになった。
東京三日目の朝は雨だった。
この日もなか卯で朝を決め、そして昼は長男と待ち合わせる鰻屋を訪れた。
数量限定の特上うな重を食べ、白焼をデザートにして店を出た。
たいへんおいしく長男が満足そうだったから、わたしたちはそれだけでとても嬉しくなった。
自転車で散髪屋へと移動する長男を見送って、店の入り口付近で家内の記念写真を撮っていると、引き戸が開いて中から人が出てきたので、わたしは一旦カメラを置いた。
そのとき家内は無言であったが、とっても驚いた表情をしていたので、わたしも中から出てきた人を注視した。
なんとわたしたちの眼前にいたのは、韓国大物女優のペ・ドゥナだった。
わたしたちはペ・ドゥナにしばし見惚れたが、わたしたちの視線など意に介さず泰然自若といった感じでペドゥナは店の前に立ち連れの人が出てくるのを待っていた。
やがてマネージャーらしき人物が現れた。
一緒に去っていく後ろ姿をわたしたちは無言で見送ったのであったが、アジアを代表する大女優が、つい立てを一枚挟んだわたしたちの隣席でうなぎを食べていたのであるから、これは言葉を失って当然といった話だった。
カメラを向けられていることに気づいたマネージャーがわたしたちの方を振り返って、ダメダメと手で合図した。
そこでわたしたちは撮影をやめ、ペ・ドゥナの後ろ姿に手を振った。
驚きの余韻にひたりつつ神楽坂まで歩き地下鉄に乗った。
あてもなく阿佐ヶ谷で降り散策し、やはり場所を変えようと銀座へと移動し買い物などして歩き回ったからかなりくたびれ、夕刻、恒例のマッサージ屋へと向かった。
足つぼ45分の施術を受け、世にフットケアほど気持ちのいいものはないと思うことはいつも同じで、大丸にて焼き鳥など食料を買い車中の人となった。
今回の東京滞在期間中、新宿伊勢丹で女優の高橋ひとみさんを見かけ、そしてうなぎ屋でペ・ドゥナと出くわした。
そして何より、忙しい合間を縫って二男に会えて長男にも会えた。
収穫大。
東京で過ごす時間がどんどん実り多いものとなってゆく。