三連休を控えた木曜の午後。
エステを終えた家内に誘われて、神戸の街をぶらついた。
海から山へと吹く風がやわらかく、肌にとっても心地いい。
この天然の清涼感はまさに季節限定であったから、家内が言う通り、屋内に引っ込んでいる場合ではなかった。
一緒にケーキを食べ買い物し、そこらを歩くだけで幸せと思える神戸特有の開放感に存分に身をひたした。
夕刻、そろそろ時間になったので西宮方面へと引き返した。
この日は毎月通う鮨たけ屋の予約の日だった。
客はわたしたちを含め二組だけだった。
その分、大将の技量が冴えに冴え、ほどよい静けさが鮨の美味を更に引き立てた。
わたしたちはカウンターに横並びで座って、珠玉の一品一品を感嘆しながら味わった。
それら一品が差し出されるまでの過程を思えば、早々に飲み込むなどできない。
じっくり噛み締め、だからなおさら美味が増すのだった。
心満たされて店を後にし、通りを走るタクシーを呼び止めて地元の街まで運ばれた。
楽しい時間をもっと楽しもう。
夫婦の考えは同じで、だから場が二次会へと移るのは自然な流れだった。
以前から気になっていた和食屋があった。
そこをのぞいてみることにした。
わたしたち二人の他、客はいなかった。
ちょうど目と鼻の先にある甲子園球場で、ともにぶっちぎりでリーグを制したタイガースとバファローズがしのぎを削っていた。
誰もが野球に夢中で、試合中は閑古鳥が鳴くのだという。
それでも試合後は満杯になって、誰もが野球について話題にするから試合経過のチェックが欠かせない。
そんな話をしながら、店主がふと漏らした。
でもどうせなら、タイガースとブレーブスの日本シリーズが見たかった。
そう言えばここはブレーブスのお膝元でもあった。
いくらオリックスがブレーブスの系譜を継ぐとは言え、名がバファーローズなのであるから、やはり似て非なるものなのだった。
料理は出だしのつきだしの品から美味しかった。
聞けば明石の競りで魚を仕入れるのだという。
市場というのは閉鎖的な場所で、潜り込めるようになるまでたいへんな時間がかかった。
そう言って店主は入場証を兼ねる帽子を見せてくれた。
ちょうど季節柄、枝豆は丹波の黒豆だった。
家内はたいそう喜んだ。
その昔、夫婦でよく秋の丹波を訪れた。
食に導かれ、わたしたちは過去の素朴な時間を思い出し、思い出話をあれやこれやと膨らませ貸切状態の店の空間をゆっくりと楽しんだ。
では、と引き上げ、帰り道にマッサージ屋があったから、二人でフットケアを受けることにした。
これが締めの三次会となった。
家内の施術者はエジソンで、だから随一のマッサになるのは明らかだった。
三連休を前に、すっかり整って家路についた。
東の空に明るく輝く木星を見上げつつ思った。
ただぶらついてご飯を一緒に食べる。
そんな素朴な時間が日常を唯一無二のものにしてくれる。
わたしの手に提げられた神戸のケーキがいまかいまかと出番を待っていた。
夫婦の時間はこのあとも引き続くのだった。