帰宅してリビングにあがると、家内は料理づくりに余念がなかった。
次の日に二男が帰ってくる。
そう思うとあれもこれも食べさせようとなって家内の手は止まらなくなるのだった。
料理づくりに集中していたからだろう。
家内は階下から聞こえる物音に注意を払わなかった。
家内とわたしがいまリビングにいる。
この家の全メンバーがそこに揃っているのだから、階下に人の気配があればそれだけでびっくりするようなことである。
物音が確かに聞こえているはずなのに、しかし家内は気づかない。
わたしは階下へと降りた。
そこにいたのは二男だった。
予定より一日早く帰ってくるとわたしは知らされていたが、家内は何も知らない。
よお、元気か。
うん。
わたしは二男と会話した。
事ここに及んで、家内は階下に誰かがいると気がついた。
家内が階段を駆け下りてきた。
家内にとって「推し」は息子で、この地上にそんな「推し」が二人いる。
そのうちの一人が玄関先にいると分かって、家内は息子の名を呼び歓喜した。
そこから家内の声のトーンが数段あがって、目に見えて明るく元気になった。
昔、言われたことがあった。
男の子がいると家が光り輝く。
それをわたしは目の当たりにしたようなものであった。
息子の滞在は一週間ほどだろうか。
どんな若返りのクスリよりも息子の存在が効果的であるとこれまたわたしは目の当たりにすることになるのだろう。