この夜も家内と待ち合わせた。
先に着いたので大阪下町の夜道をぶらり歩いた。
寒さが漆黒の度を深め、なんとも心寂しい。
いつしか眼前の風景とここ最近の心模様がシンクロしはじめた。
ときおり先の見通せない懸念材料などが仕事に付随する。
だから普段は機嫌よくこなせる業務であっても、まれに忌避感のようなものがつきまとう。
何も無理する必要はなく、静か平穏に生きていければそれでいい。
これまで一貫して、そう考えてきた。
わたしの中のどこを探しても山っ気のやの字も見つからない。
そもそもうちのおかんが言っていた。
カラダが元気ならそれで十分。
わたしも知らず知らず、その考えを引き継いでいる。
しかし、そうであっても社会の一端に関われば、どうしたってそこで担うべき役割が生じる。
いくら波風なく暮らしたいと思っても、その役割からは逃げられない。
それがハードであればなおさら。
お金はいらない。
だから一抜けた。
お金などあとでどのようにでもなるだろう。
しかし、「一抜ける」と人ではなくなる。
つまり願望はどうあれ、現実というB面との対峙は人である限り避けられないことなのである。
結局、わたしたちは課された役割を果たすべく立ち向かっていくしかなく、この夜道でわたしが噛み締めた思いを言葉にするなら「ああ、強くなるしかない」の一語に集約される。
ほどなくしてエステが終わったと家内から連絡が入り、わたしは先に店へと入った。
ビールから日本酒に移ったところで、家内が姿を見せた。
寒く暗い夜道とは無縁な場所で、ようやくA面の時間がはじまった。