旅先から戻ってすぐ日常へと復帰した。
段差なくスムーズに移行が果たせて心地よく、この日は終業が遅かったから飲んで帰ることにした。
ひとりカウンターに腰掛けて、しみじみ思った。
いろいろあったがなんとかなってきた。
連戦連勝といった景気のいい話からは程遠いにせよ、まあ負けずに持ちこたえてきた。
それでいつしか顧客が増えて、商いもそこそこと言えるレベルに至った。
もちろん、それを目指したことなど一度もなかった。
そもそも将来の展望を思い描く余裕はどこにもなかった。
ただただ倦まず撓まず。
日々真面目に仕事に取り組み、難題のひとつひとつに誠実に向き合ってきただけのことであった。
重心を低く保って地味に地道に前へと進む。
そんな小さな一歩一歩が積み重なって、気づけば、まあそれなりに頑張ったという「形」が整っていったという話だろう。
だから、今後も愚直に精進することになる。
なんら見栄えのしない話であるが、単純至極であるから迷う余地なく分かりやすい。
家に帰ると、女房が待ち構えていた。
夕飯を作っていたからご立腹だった。
こういうときは言い訳せず、ただただ謝るのが鉄則となる。
すぐに謝り、素直に謝る。
こちらもシンプル。
女房がご機嫌であってはじめて日常がよりよいものとなる。
そしてこういうときこそ日頃の感謝についても伝えておかねばならない。
そう心得て一貫することが家庭円満の秘訣と言えるだろう。