この日が仕事始めだった。
いつもより早く家を出て事務所へと向かった。
駅への道中、空に目を奪われた。
なんて美しいのだろう。
正月休みの間に空気の澱みがすっかり払拭されて、空がどこまでも青く澄み渡っていた。
目からその青が沁み入って、心まで洗われるかのよう。
その清々しさに陶然となった。
そんな印象深い青空のもと事務所へと入って、皆と新年の挨拶を交わした。
仕事をし始め、やがていつもの日常の時間が流れ始めた。
と、家内から連絡が入った。
ヨガのレッスンへと向かう道すがら、急に思いついたのだろう。
いざという時に備え災害用のトイレを買っておいてとのことだった。
いつもと変わらぬ時間を過ごし、しかし、災害用の簡易トイレを買い求めることはいつもとは異なる非日常に属する。
今年は新年の幕開けとともに、日常が盤石ではないのだと思い知らされた。
いともあっけなくかつ唐突に日常には亀裂が入るのだった。
そこにフォーカスすれば、ただただその不条理に怖気づく。
わたしは日常の手触りを確かめるように、あるべきものがちゃんとそこにあるのを見定めるように、窓を開けた。
陽光とともに、丸みを帯びた冷気が春の気配を漂わせ室内へと入り込んできた。
空は引き続き美しかった。
で、ふと思ったのだった。
日常であろうが非日常であろうが、いずれこの存在自体がこの空間へと招き入れられ溶け込んでいく。
そんな感じであるならば、怖がるようなことは何もない。
まるで片足をそこに突っ込み、すでに溶け込んだみたいな感覚になって、気持ちはほんの少しだけやわらいだ。