遠慮しがちな性格なので、飲み会の場では末席に腰掛ける。
端っこでくつろいで静かに飲む。
その方が気楽で性分に合っている。
だからいつもは皆が席についた後を見計らい一歩遅れて座敷に入る。
しかしこの日は意を決した。
さっさと中へと入ってお歴々の集まるど真ん中に何食わぬ顔して腰を下ろした。
国会議員がいて市町村長がいて会社社長がいて年功を積んだ弁護士がいた。
一昔前ならあり得ない行動だった。
控え目という以前に引け目を感じて躊躇したに違いなかった。
が、この場に臨む際にわたしは考えたのだった。
別にそろそろいいのでは。
わたしだって捨てたものではない。
それにわたしには息子が二人いる。
彼らに「向かっていけ」と教える父なのであるから、範を垂れる意味でも尻尾を巻いている場合ではないし、息子たちに語って聞かせるべき情報は一歩踏み込まねば得られない。
わたしは元気よくそこに身を投じ、人生の諸先輩を立てながら、会話に混ざって親睦を深めようとベストを尽くした。
そんななか、老舗ゴルフクラブの話があった。
審査が厳しくお金もかかる。
しかしそこで得られる人的交流のレベルがとてつもない。
なるほど世には閉じられた世界が数々あって、寸法が足りないと中を覗き見ることさえ叶わない。
すごいですねと相槌を打ちつつ、それでもわたしは内心で思ったのだった。
たとえば大阪星光33期の輪であれば審査もいらず、お金も不要。
誰も一人では生きられない。
であれば、それなりに属する世界で人的交流を充実させる、それがまずは大事な心がけになるだろう。
その他、アメリカやヨーロッパだけでなく、アラスカ、インド、南米、亜南極諸島といった遠い異世界を巡る旅の話をうかがった。
いつかわたしも。
女房を伴ってするのだろう世界旅行を思い描いて胸が膨らんだ。
目論んだ以上。
仕事の話もあってそれら含めてかなり「実入りの多い」酒席となった。
帰りは弁護士の先生と道中をともにしいろいろな話を伺った。
これも役得。
ふつうそんな偉い先生と並んで座って、といったことはあり得ない。
向かっていこう、元気に明るく。
女房を筆頭に息子二人がすでにそう実践している。
遅ればせながら、わたしもその末席に食らいついていくことになる。