マドリード滞在最終日となった旅行四日目、ホテルでの朝食を終え周辺をぶらついた。
チュロスの名店には行列ができていた。
並んでいると中から店の人が出てきた。
別館なら早く順が来ると言って列を作る客たちをいざなった。
わたしも含めすべての人たちがその誘導に素直に従ったが、しかし家内は本館の方に一人だけ留まった。
家内が直感したとおり、列がはけた分、本館の方がはるかに早く順が回ってきた。
家内からの連絡を受け、わたしは本館へと戻って家内の前に腰掛けた。
サッカーで例えれば別サイドへと引き寄せるフェイントで十人以上を抜き去ったようなものと言えた。
家内はどこであれ機転を効かせて生き残る。
わたしはそう再認識させられた。
ところで肝心のチュロスであるが、油分と甘さがヘビーに過ぎてとても食べ切れる代物ではなかった。
過半を残し、他のものを食べようと意気揚々、わたしたちは今度はサンミゲル市場へと移動した。
雑踏とも言えるような中で飲んで食べ、昼にかけ過密度が増したところで席を立ち、目抜き通りにあるPull & Bearに立ち寄った。
息子らに写メを送ってシャツなど選定するもかなりの荷物になると見込まれたから購入は帰国直前のバルセロナへと先延ばしすることにした。
ホテルをチェックアウトしFREENOWでタクシーを呼んだ。
が、出発地点に行き違いがあった。
ずっと待機していたタクシーにわたしたちが気づいた時には、業を煮やしたのだろう他の客を拾うと言って運転手に乗車を拒否された。
そのあと通りかかったタクシーに乗り込んだ。
天井がスケルトンのテスラで運転手アントニオの選曲が実に素晴らしかった。
ホテル滞在中は部屋でCADENA100というスペインのFM放送を流していた。
心地よく過ごすにはいい音楽が欠かせない。
それに長時間飛行機に乗ったあとではシャワーとベッドがあるだけで幸せで、だからマドリードで過ごした四日間は夢見心地であったといっても過言ではなかった。
FREENOWのアプリでは10ユーロと料金が表示されていたがアトーチャ駅に到着したときメーターは32ユーロを示し、現金で35ユーロを渡したところ、チップも込みだと思ったのだろうアントニオはたいそう喜んだ。
マドリードの青空を満喫でき、信号待ちの度にアントニオ手作りの料理の写真を拝めて、かついい音楽に癒された。
そう思えば見込み三倍の運賃も決してぼったくりとして高くはないと解釈できる。
アントニオに対しグラシアスと笑顔で礼を述べ、わたしたちはタクシーを降りた。