先日のこと。
グランヴィアで打ち合わせがあった。
早くに着いたので、わたしは入り口付近に立ちお相手の方が現れるのを待つことにした。
場所が分かりやすく寒さもしのげる。
待ち合わせの場所としてうってつけと言えた。
すぐそばで談笑する若手サラリーマンらもここを待ち合わせ場所にし、これからどこかへ繰り出すのであろう。
懐かしい。
若い頃、わたしも仲間とよく飲み歩いたものだった。
若手の彼らにかつての自分を重ね、ひととき遠い昔日の思い出にわたしはひたった。
と、一人のおじさんがわたしの前を通り過ぎた。
地方から大阪にお越しの方といった雰囲気に思えたが、違った。
若手サラリーマンらが声を上げた。
あっ、専務。
おじさんは彼らの会社のお偉方であるようだ。
幹事とおぼしき青年がおそるおそる専務に声をかける。
もしかして、専務も参加されるのですか。
ほんとしょうもない庶民的な店しか予約していないんですが。
幹事は恐縮しているというより迷惑そうに見えた。
他の若手も不安げに行方を見守っている。
専務は言った。
串かつだろ、それで構わんよ。
他にもメニューはあるだろうし。
確認しますと幹事は即答し予約の店へと電話を入れる。
残念ながら、他にもメニューはあるようだった。
気楽なごやかなムードが一変し、ぎこちないような空気に包まれた。
わたしがこのとき目にしたのは、飲み会がパーになった瞬間、と言えるのだろう。
わたしはその力学の外にいる。
彼らを支配する力関係の文脈としがらみにわたしはまったく縁がない。
たちまちこわばった彼らの豹変にわたしは吹き出してしまいそうであったが、彼らからすれば笑い事ではないという話なのだろう。
専務とよばれるおじさんは飲み代全部を持つほど気前良さそうには見えない。
彼ら若手はお金払って気を遣って、説教じみた同じ話を聞かされ続ける夜を過ごすことになるに違いない。
彼らにとっては窮屈で悲しい時間がこれから始まるのだった。
さあ誰が専務の隣に座るのか、前に座るのか。
彼らの間ではすでにそういった駆け引きがはじまっているように見えた。