事務所に顔を出した家内とともに帰途についた。
途中ビッグビーンズで週末食べる牛肉などを仕入れるがクルマということもあって結構な量を買い込むことになった。
荷物を両手に駐車場まで歩く。
ずっしり重いので骨が折れた。
さっきまで事務所近場のジムで目一杯運動していたこともあって疲労困憊。
運転は家内に任せることにした。
この日、二男の学校で保護者会があった。
だから家内のいつもの二万語は10倍に膨れ上がった。
学年主任によれば今年も星光は安全志向。
年々その傾向が強まっている。
しかし例えば滑り止めとして挙がる早慶はここ数年驚くほど狭き門となっており来年再来年も激戦必至。
同志社であっても著しく難化しているから甘くみると痛い目に遭う。
つまり安全志向が安全を保証する訳では全くないので、油断することなく、点差が開く英数を早め早めにしっかり固めて実力を涵養しておくことが大切になる。
ウーマンラッシュアワー村本のような勢いで話し続ける家内の言葉の僅かな間隙にわたしも言葉を差し挟む。
関西では京大、阪大、同志社。
この三つだけが強い。
個として優秀で、結束も強いので団体戦となればその力が激増する。
東京で人事業務を司る友人が教えてくれた話を家内にすると、家内は何度も頷き話題は隣家のことに移った。
両隣とも姉妹揃って中学から同志社系列に入り、内部進学していま4人全員が同志社の学生になっている。
大学入試において同志社は他の私学を寄せ付けない。
揺るぎなく最難関の座を占める同志社であるが、中学入試はカンタンで4人が通ったのは町の個人塾であり、月謝も2万円程度、週数回通うだけであったので大手進学塾が強いる負担とは比較にならない。
つまり、少額投資が大きく化けたという話であるから、両隣の娘たちは親の先見の明に感謝しなければならないだろう。
家に帰ってすぐ家内は夕飯の支度を始め、わたしは買ってきたばかりのスパークリングを開けた。
「バイヤーおすすめ」との謳い文句に惹かれて買ったが、その謳い文句が後押しするからかもしれない。
とても美味しく感じられた。
家は食べるものだらけ。
出番を待ちわびている食材から先にいただこうとなって、焼かれるはずの牛肉はお預けになった。
サラダにはアボガドとサーモンがたっぷり投入され、あたご梨が添えられ、味の間口が大幅に拡張され、何の変哲もない揚げだし豆腐がディンタイフォンのラー油によってエキゾチックな一品に変貌した。
その他、チーズ、オリーブ、生ハム、フルーツトマトといったヘルシーな食材が食卓を飾った。
ときおりラー油をつけすぎ咳き込むも料理がおいしいので会話が弾む。
そうそう、ちょうどいまの時間、大阪星光の婚活パーティーが北浜で執り行われている。
わたしはもう相手を探さなくていいから楽チンだ。
そんな話から婚活パーティーの話となって、わたしは家内に意見を述べた。
婚活パーティーの成否は主宰者が握る。
類は友を呼ぶというとおり、主宰者側の顔ぶれが集まる男女のレベルを規定する。
程度が疑われるような、魂胆丸見えといった連中が笛や太鼓で盛り上げようとしても、一定の見識の者らには眉をひそめられるのがオチであり、草一本生えぬ不毛の凍土に冷たい風が吹き抜けるだけだろう。
大阪星光婚活パーティーの主宰者は社会的に一角を成す方々で形成され、動機は単純。
星光に関わる方々の幸せに寄与したい。
それだけ。
もちろん無償の活動で、良縁に貢献できれば嬉しい、というその喜びが報酬と言えば報酬に当たるだろうか。
だから信頼寄せることができ、その強固で豊穣な地に人が招き寄せられてくることになる。
今回もいくつか良縁が生まれるのではないだろうか。
と、そこに長男からメールが届いた。
Netflixで『エスター』を観終えたところ。
感情がざわついているのだという。
後まで尾を引く映画と言えば『エスター』、『ファニーゲーム』、『ミスト』の3つが代表的なものとして挙げられるだろう。
その昔、男三人でよく映画を観た。
『エスター』はわたしと二男で、『ファニーゲーム』はわたしと長男で、『ミスト』は男三人で観た。
これで男三人共通の話題が一つ増えた。
『エスター』には未公開の別結末があって、戦慄ついでにそれも観たが方がいいと薦めたが、もうたくさんだとの返事が長男から返ってきた。
そう言えば最近まったく映画を観ていない。
息子とのやりとりがきっかけになって、映画への憧憬が胸のうちで静か波打った。
それで久々、家内を映画に誘うことにしたのだった。