おいしい寿司が食べたい。
結婚当初、家内が口癖のように言っていた。
が、いかんせん当時は貧乏。
いつの日か。
そう心に念じ、いったいどれだけの月日を過ごしたことだろう。
あれは2016年の春。
吹田の邸宅で新築パーティーが行われた。
わたしは家内と参加したのであったが、巨大な庭に寿司や焼肉、それに中華の出店があって、度肝を抜かれた。
あっけにとられ右往左往していると、吹田のイケメン医師と言えば森内科クリニックの森院長その人が、出店のひとつを指差しながらわたしたちに声をかけてくれた。
ここの寿司は食べておいた方がいいですよ。
西日本一、いや日本一かもしれません。
聞けば、「さえ喜」という名の寿司屋だとのこと。
わたしは家内と順を待つ列に並び、そして何回も並ぶことになった。
これがわたしたちにとって、ほんとうに美味しい寿司を食べる初めての経験になった。
それがきっかけとなって、寿司との縁が芽生え始めた。
タコちゃんに、「こいき」、「丈」、「あきと」、「黒杉」といった名店に連れて行ってもらい、カネちゃんには、「うちやま」や「末廣鮓」、天六のいんちょには、「さえ喜」や「広川」に呼んでもらった。
美味しい寿司のラインナップとしてはそれで十分、一生分とも言えたが、ここで「寿し おおはた」が現れた。
2019年3月のことであった。
そう言えばその日の主役、安本先生がかねてより言っていた。
凄い寿司屋がある、と。
びっくりするほど美味しく、美味しい寿司にすっかり慣れたつもりのわたしであったが、感嘆を避けられなかった。
だから後日、家内を連れようとなるのも当然、
しかし、思い立つも予約電話がつながることはなく、いつしか「寿し おおはた」はどこか絵空事の次元の話となりかけていた。
つい先ごろも思い立って電話をかけた。
が、状況に変わりはなく、呼び出し音にじっと耳を澄ますだけのことであった。
そんな折も折のこと。
天六のいんちょから連絡があった。
「おおはたを予約したが、席に空きがある」
ああなんてことだろう。
これをこそ念ずれば通ずと言うのではないか。
一も二もなく、わたしは天六のいんちょに二席の確保を申し出た。
そして家内に対しこの吉報を何か手柄でも取ったみたいに嬉々告げたのであった。
昨夜、家内はようやくのこと「寿し おおはた」の席につくこと叶い、珠玉の寿司に何度も息を呑み、予想通り大いに喜んだ。
座席は全部で7つ。
わたしたち夫婦の他は、天六いんちょの家族のみ。
子らが可愛く、天六のいんちょが大柄で奥さんがよく気がついてしっかりしているものだから、まるでライオンの家族みたいであると、寿司を食べつつわたしは思った。
子ライオンは二人ともがちらと将来の大物ぶりの片鱗を見せ、親ライオンは子ライオンが愛おしくて仕方がなく、子ライオンのためならライオンの本領発揮、穏やかさのなか潜む獅子奮迅の気迫もそこはかとなく漂わせ、まさにライオンと言うしかなった。
食べ終えてライオン家族とそぞろ歩き、駅で別れた。
その際、巨大な雄ライオンこと天六のいんちょが、うちの息子にとさくら堂の生クリームアンパンの紙袋を持たせてくれた。
ライオンがくれたパンであるから、ご利益あること間違いない。
4つ全部、うちの息子が平らげることになる。