芦屋駅に着いたとき、時刻は19:47。
予定より早く着いた。
すっかりクリスマスの装いとなってキラキラ光る街の飾り付けを横目に南へと歩を進める。
まもなく8時。
安愚楽(あぐら)の暖簾をくぐった。
わたしが一番乗りだった。
聞けば、先行の客は入れてないということだった。
すべての席に箸が整然と並べられている。
わたしたち9人だけのためにこの日は席が用意されていた。
カウンターの一番奥に腰掛け年若い女将さんと話していると、フォーユーの相良さんが到着し、間を置かず安本先生、長谷先生、天六のいんちょ、そしてカネちゃんが現れた。
天六のいんちょが持参した手土産を若き大将に渡しているとき森先生も姿を見せ、少し遅れて鷲尾先生が続き、そしてラストに氏野先生が席についた。
これでこの夜のナインは勢揃いとなった。
安愚楽を皆で訪れるのは一年半ぶりのことであった。
断酒継続中の天六のいんちょとクルマでお越しの相良さんは炭酸水、その他はビールを頼み酒宴がはじまった。
久々であったが、やはり安愚楽は素晴らしい。
刺身が醸すこの甘みは他では味わえない。
そのほか出る品すべてが凝りに凝っていて、わたしたちは感嘆し通しとなった。
料理は言うに及ばずお酒も美味しく、何もかもが行き届いていて完璧と言えた。
そんな完璧を味わいつつ、男9人、ことさら騒いで話すことなど何もなく、終始一貫、静かなトーンで語らった。
耳目集めて皆が色めき立った話題と言えば、カネちゃんの開業話くらいだろうか。
大阪は谷町線の平野駅、われらのカネちゃんが当地に根を張る町医者となる。
情が深くて心優しいこの内科医は、話し上手で野球も上手い根っからのトラキチ。
皆に愛され親しまれ、地域に不可欠の医師となること間違いないだろう。
締めの炊き込みごはんがやたら美味しく、部活合宿所の食堂でするみたいに揃いも揃って皆がお代わりを繰り返した。
それでも余って、それを店主が折り詰めに入れてくれる。
残った品は、持って返って食べてもらう。
こうであってこその名店だろう。
駅で別れて帰宅する。
持ち帰った折り詰めをみて家内はたいそう喜んだ。
やはりこうであってこその名店だ。
湯にゆったりとつかりつつ、扉の向こうで用事する家内の二万語に耳を傾ける。
この昼、家内はわたしの実家に寄ったという。
作った料理やらお菓子を差し入れし、そして、焼肉屋を予約しそこにうちの母を招いたというから嬉しい話だ。
グルメ三昧となった師走も残すところあと2週間。
まだしばらくグルメな日々が続き、いよいよ大晦日、親父と差しで飲む夜に大団円を迎える。