送られてきた通話記録には電話番号の一部だけが記載されていた。
番号を逐一覚えている訳ではないので、携帯に登録してある番号を確認しなければならなかった。
その際、誤って電話を掛けてしまった。
応答があるはずもなく、「ごめん、間違えて掛けてしまった」と伝えることもできない。
なんと悲しいことだろう。
いつ、何を話したのか。
通話記録をたどって、幾つもの会話を振り返った。
記憶を探るうち、だんだんその内容が明瞭になっていった。
同時、明るく元気な声が蘇って、耳元に響いた。
この日も明石で業務を行った。
数時間の面談を終え事業所を後にしたとき、携帯の履歴を確認した。
幾つか着信があるなか、そこに名を見つけ一瞬、混乱した。
思い返せば、わたしが誤って発信したときの履歴であった。
が、ちらと眺めると、そのとき何か会話でもしたとしか思えない。
さっき会話した。
そんなはずもないのに、そう願うような気持ちになって、だから辛さが一層込み上がることになった。
もう一週間以上が経過するのに心が残って仕方なく、わたしはまだ現実を受け止め切れていないのだった。
夕飯は長田の平壌冷麺で食べようと家内と待ち合わせをしていた。
母を伴って家族でこの店を訪れたのは10年以上も前のことだったろうか。
辛味のホルモンと冷麺が絶品。
昔から変わらぬ味で、いつ食べても懐かしい。
家内と向き合い、定番どころを静かに味わい、母を想った。
食後、各停の電車に並んで座って帰途についた。
車窓の向こうをただぼんやり眺めるうち、またじんわり目に涙が浮かんだ。
日常は概ね回復しつつあるが、まだ当分、寂寥から身をかわせそうにない。