ホテルをチェックアウトし、自転車に乗って街へ出た。
いつもと同じ。
家内が前を走りわたしが続く。
涼風に木々がそよいで、街は日曜朝のやすらぎのなかにあった。
神宮外苑から代々木公園を経る。
至るところ新緑がたわわ茂って、森のなかを進むのと変わらない。
秋と並んでもっとも過ごし良い季節である。
生きているだけで幸せ。
心からそう思えた。
半時間も経たぬうち下北沢に到着した。
前夜、二男には果物など食材をいろいろ持たせた。
長男には焼肉弁当とソルロンタンを届けただけなので、各種果物や飲み物や手鍋セットなどを改めて買い込んで、彼が留守の間に運び入れた。
これ、と頭に浮かんだことを、すぐ、に漏れなく実行する。
ここに家内の凄みがある。
思うより先に面倒で普通なら腰が上がらないというのが相場だろう。
用事を終え、しかし、せっかくの爽やかな日曜日。
引き続き夫婦で自転車を漕ぎ、休日の憩いに全身をひたした。
昼を過ぎ、さすがに漕ぎ飽きた。
代々木八幡駅にて自転車を返却しようとしたが、ポートが満杯で、あと一踏ん張り、隣駅の代々木上原にてポートを探し、ようやく返却を果たせた。
日曜の午後、サイクリングの後はワインだろうと駅前のカフェに入って、白赤と飲んで二時間ほど過ごしてから空港に向かった。
家内は行きは新幹線で、帰りは飛行機。
絶対に新幹線の方が楽だという家内の主張を聞き続ける行程となった。
品川から羽田に向かう京急は混み合い、どうしたわけかチェックインで手間取り時間を食い、寿司幸での時間は格別であったが、搭乗したら搭乗したでいままでにないほど飛行機が揺れに揺れ、伊丹空港が混み合っているとのことで着陸が延ばし延ばしになり、到着が30分も遅れた。
何も知らねばただおとなしく座っているだけの話であったが、ANA Wi-Fiサービスの画面に現在地が表示され、伊丹直前で飛行機が何度も東京方面へと引き返す様子を目の当たりにしたものだから、疲労感がどっと両肩にのしかかった。
空港を降りまっすぐタクシー乗り場に進み、しばらくしてタクシーがやってきたときには心底ほっとした。
ああ、これでやっと家に帰ることができる。
そう安堵し、しかし疲れていたからいつもと異なり、車中、わたしも家内もずっと押し黙ったままだった。
労苦を伴う帰路であったからこそ余計に家が愛おしい。
家にあがってようやく口を開く。
ああ、家がいちばん。
二人がそうつぶやくのは目に見えていた。