猛烈な寒波が列島を襲った週末の朝。
タクシーに乗って伊丹空港に向かった。
長男はいったん東京に戻り、息子たちはクリスマスを各々別々に過ごす。
だから、親は親で別途大人のクリスマスを楽しむことにしたのだった。
空路、向かうは博多。
先日、タコちゃんにてっちりをおごってもらった帰り道、タクシーの運転手が言った。
おいしいものを食べるなら博多の一択。
その言葉が耳に残っていた。
そして、一緒に行くなら誘うのは家内をおいて他にない。
福岡空港を前に、天候が荒れた。
機は雪雲に覆われ揺れに揺れた。
雲間からのぞく地上には雪が積もっていた。
三十分近く着陸が遅れ、気が遠くなりかけたがなんとか無事博多の地に降り立つことができた。
寒風に雪片が混ざって吹きすさび、どこか北国の景色を彷彿とさせた。
タクシー乗り場へと歩き、途中、前を通りかかったタクシーを停め、半ば無理やり乗り込んだ。
ルール違反かもしれなかったが、それほど外は寒かった。
グランドハイアットとホテルの名を告げ、運転手の名前に目がとまった。
下の名が「九州男」とあって、読み方を聞くと「くすお」と読むと教えてくれた。
運転手と同じ七十歳くらいの年代だとよくある名前なのだという。
おお、ここは九州。
初っ端から文字通りの九州男児に当たったのであるから幸先がいい。
くすおさん、くすおさんと家内はしきりに話しかけ、おすすめの寿司屋や鍋屋をヒアリングしていった。
出発前にすでにリサーチを済ませていたが、地元の声を参照し選択の精度をとことん高める。
それが家内の流儀なのだった。
おいしいものを食べるなら博多の一択。
いよいよ実現の時が近づいていた。