3月なのに真冬並みの寒さとなった土曜午後、わたしはジムへと向かった。
じっくり運動して温まろう。
まずはプールから。
そう算段する道中、息子から電話がかかってきた。
路上で立ち止まり、彼の話に耳を傾けた。
今夜の便で出発する。
先日、ホテルまで迎えにいった外国人客と二人での道中になるのだという。
そうかそうかと聞きながら、わたしの頭には英語で流暢に会話する息子の姿が浮かんでいた。
課されるタスクが多く、かなり気が張っている。
そう言う息子にわたしは返した。
無理もない、ついこの間まで大学生だったのだから。
馴染むにはそれなり時間がかかるだろう。
でも、じきに慣れる。
そのプロセスを後で誰かに語って聞かせる。
そんなエピソード収集なのだと思って楽しもう。
お互い頑張ろう。
父と子で健闘を誓い合って電話を切り、わたしはジムへと足を踏み入れた。
アウェイの地でも揉まれ、目覚ましい成長を遂げていく息子の姿を思い描きながらわたしはとことんカラダを追い込んだ。
家内が料理教室に出かけていて留守だったから、ジムを後にしてわたしは飲み屋へと吸い込まれていった。
塾へと通うちびっ子や送迎の母親などで西宮北口は土曜の夕刻も盛況だった。
そんな様子を目にした後だったから、ひとりカウンターに腰掛けてふける思い出は受験のあれやこれやを巡るものとなった。
やんちゃでサル同然。
それでラグビーに明け暮れていて中学に合格したのだから、誰でも受かる。
家内の周囲がそう思うのは無理のないことだった。
そろそろ引き上げようと思う頃合い、家内から連絡が入った。
感じのいい店の予約が取れたのだという。
わたしは家で着替えてそのまま北新地へと向かった。
いつもどおり家内と息子たちについて話しながら、夕餉の時間を過ごした。
長男が海外出張で留守になるから、今日の食料発送は二男にだけ向けたという。
振り返って心底感心してしまう。
お腹に宿ったときから今の今に至るまで、家内の息子愛はゆらがない。
と、まもなく長男から写メが送られてきた。
まもなく搭乗。
宿泊先はリッツで一週間の滞在になる、さよならニッポン、とのメッセージが添えられていた。
息子が切り拓き、うちの行動範囲が今後海外へと拡張していく。
酒場で向き合う夫婦の士気は俄然、高まっていった。