東加古川駅を降り、ロータリーに停まっていたバスに乗り込んだ。
Googleマップが示す経路どおりのはずだった。
バスが発車し確認のため地図に目を落とした。
目的地とはまさか正反対の方へと動き出したから椅子から転げ落ちそうになった。
そのうち迂回するのでは。
この期に及んで事態を楽観し、しかしそんな様子はなくバスはますます沖へと流されていった。
時間に余裕があったはずがもはや遅刻確定。
はじめて訪れる事業所であったからいきなり信用を損なうような出だしとなりかねなかった。
Googleマップに確かに表示されていた。
しかし調べると乗るはずのバスはすでに運行が停止されていたのだった。
そう言えば運転手不足のあおりを受け神姫バスが幾つかの路線を廃止するとのニュースを目にした記憶があった。
いずれにせよ急ぎ岸へと戻る必要があった。
バスが次に停車したときを捉え、田畑が広がる地帯であったがとにかく降車しすぐさまGOでタクシーを呼んだ。
ああ、幸い。
5分ほどで来てくれるようで、そうであれば傷は最小限に抑えられる。
事業所に電話し事情を話し、運転手も飛ばしてくれ結局は3分ほどのロスで済んだから事なきを得た。
上々の出来栄えで業務を終え、帰途もタクシーを呼んで駅に戻った。
ああやれやれ。
電車に揺られ、充実感を覚え、ふと南海ホークス時代の門田選手のことが頭に浮かんだ。
月間ホームランが15本になって日本記録まであと一本に迫り、日の当たらないチームの、しかし凄い記録に子どもながら関心を持って当時わたしは連日新聞の片隅に目をやっていた。
そんな感じで地味に目立たず、成約数でいまのわたしも記録を塗り替え続けている状態と言えた。
とてもいい感じ。
それで寄り道して一杯と思ったのであったが、家で食事を用意していると家内から連絡が入ったので諦めた。
わたしの疲労を察してか、食卓には黒にんにくの房が幾つも置かれていた。
ちょいとつまむが口に合わない。
それで手をつけずにいると、家内がその値段を見せてくれた。
現金なものでそれで食指が動いた。
さっきと異なりなんだかおいしい。
わたしは次々頬張っていった。
値段が値段なので美味に加えて効果抜群に違いなく、これで明日は元気さを取り戻すことになるのだろう。
そう思えた。
なんてありがたいことだろう。
このように気遣ってくれる人がいる。
食事を作り、わたしのために5千円のにんにくを用意してくれる。
そんな人物はおかんか女房くらいのものである。