金曜である。
だから明石での仕事後、平壌冷麺にでも寄り道しようとの心づもりだった。
が、仕事の途中、事務所から連絡が入った。
お客さんの訃報だった。
今夜が通夜だというので、業務後、家に寄って喪服に着替え、わたしはそのまま東大阪の会場へと直行した。
今週はかなりハードな業務が続いた。
疲労困憊気味で、どうしたわけか左脇の腕の付け根あたりに疼痛が生じていた。
疲労によって生じる何らかのサインに違いなかった。
そんなカラダを引きずって、高速高架沿いの真っ暗でひと気のない道を歩いた。
会場につくと、人がはけはじめていた。
通夜は今しがた終わったのだった。
あたりを見回し知った顔を探すが見当たらない。
花代を払いながら会場スタッフに尋ねると、親族等は地下の食事会場へ移動したという。
こんなときにそこまで押しかけて挨拶するのは非礼だろう。
従業員らが集まる別棟ものぞくが、そこでも面識ある人を見つけることができなかった。
しばらくそこらに突っ立って、様子をうかがった。
どちら様ですかと声がかかって、しかるべき案内を受ける。
そう思っていたが、ただ間を持て余しただけだった。
それで会場のスタッフに断って、事業主さんの棺へと近づきお顔をみせてもらった。
手を合わせて深く頭を下げ、ありとあらゆる労苦からの解放とでも言うべき死のやすらぎを思いご存命中の奮闘をねぎらった。
そのようにしてご挨拶を終え、そのままわたしは会場を後にした。
帰途、乗り換えの際に軽く飲み、わたしの好きなラーメン屋が近くにあることを思い出し、せっかくだからと寄って帰ることにした。
列に並ぶと、わたしの前には恰幅のいい女子2人組がいて、後ろにはキャシャで可愛い女子3人組が続いた。
順が来て、カウンターで並んで食事する形になった。
わたしの左隣には細身の女子らが並んで座っていた。
キャピキャピと甘えたような声で「おいしい、おいしい」と言って食べる様子がとても可愛い。
右隣は対照的だった。
でっぷりとした女子らはラーメンをすすってスープを口に含み、しばらく黙り込んだ。
その様子は貫禄たっぷりで、これは、といった感じで彼女らは感服していたのだった。
そして、微に入り細に入り、大柄な女子同士で寸評を述べ合って、こぼれ聞こえる話が興味深く、そんな話をわたしはもっと聞きたいと思ったから左側への関心はまったくお留守になっていつのまにか疼痛も消え去った。
一緒にラーメンを食べる。
そう場面を絞るのであれば、キャピキャピ女子3人より、蘊蓄あるガタイ女子らと一緒に過ごす。
その方が絶対楽しくてタメになる。
やはり人は見かけではない。
短い人生、場面場面にて実のある中身の方をこそ選び取っていくことが大事、わたしはそう学び、「あんたは頼りになる」とその事業主に掛けられた言葉を何の脈絡もなく思い出した。