金曜の業務を終え家内とともに東京へと赴いた。
そこで息子たちが暮らしている。
服や食料など彼らに手渡す荷物は先にホテルへと発送していたが、結局直前にあれもこれもとなってわたしが運ぶ荷物は結構な量となった。
将門塚で手を合わせてから山手線に乗って渋谷で降りた。
ハイアットハウスというホテルができたばかりでそこを今回の宿に選んだのだった。
移動の合間合間にも仕事していたがチェックインしてからはしばらく腰を据えて業務をこなした。
夕刻5時には落ち着いて、代官山を歩き人気のビストロへと向かった。
ヨーロッパの港街にあるようなビストロとの謳い文句に惹かれあらかじめ予約していたのだった。
評判どおり。
料理は言うまでもなくワインも素晴らしかった。
新潟の「いっかく」というオレンジワインは取り寄せてでも飲みたい、それくらいおいしかった。
食後、恵比寿界隈まで足を延ばした。
午前中に台風が通過したせいだろう、東京は涼しくとても過ごしやすかった。
だから帰り道も歩いて、そんな空気を楽しんだ。
部屋へと戻って女房は長湯し、わたしはNetflixの「冷麺讃歌」に観入った。
一週間の業務を通じそれなりに感情の澱が内に蓄積していた。
だから観ていちばん心晴れる番組をと考え、「冷麺讃歌」を選んだのだった。
小さかった頃、風邪などひくと母が近所で冷麺を買ってきてくれた。
ビニール袋に入って新聞紙にくるまれた冷麺を目にするだけで子どもながらに心がときめいた。
五十年近く前の時点で7〜8百円もした。
冷麺は滅多なことでは食べられない高級品なのだった。
「冷麺讃歌」を観るうちわたしはみるみる明るく元気になっていった。
近々、そこで紹介されていた店を全て回る旅をしよう。
そう心に決めると胸が高鳴った。
希望があるから戦える。
心のなか母を伴い、家内を付き従えて本場にて冷麺を食べ歩く。
それだけで十分。
残りの人生が満たされる。