走りながら頭の中にあったのは焼肉のことだった。
せっかくの日曜。
小雨降るなか走れば、それで十分ではないか。
あとは煩悩のままに過ごそう。
焼肉を生きる支えにして走り抜き、家へと戻った。
が、玄関に家内がいて、わたしの分まで含めジムへと行く準備が整っていた。
当然のように促され、断る理由など咄嗟に浮かばずわたしは付き従う他なかった。
焼肉は死なない。
またいつの日にか。
そう言い聞かせ、気持ちを立て直した。
まずは腹ごしらえと家内の運転でカレー屋へと連れられた。
Tシャツにサンダル履きという出で立ちの家内であったが、いずれも息子のものであったからサイズが大きく、その分、家内が小さく可愛らしく見えた。
そんな一場面にこそ、ささやかな日常が鮮明に映り込む。
わたしはしみじみとそう感じた。
日曜日、夫婦団欒の幸福はそんなカジュアルな格好に表象されるのだった。
泳ぐ前にカレーは重い。
そう水中で痛感しつつ、それでもなんとか励まし合い二人揃って60分間泳ぎ切った。
ジャグジーにつかりながら夕飯について話すが、まったくお腹が減っていない。
では簡単に済ませようとなって、サウナを終え買い物のためガーデンズに寄って帰ることにした。
誰もが華やかにおめかしして、日曜夕刻のショッピングモールは賑わいを増していた。
そんな中、わたしは短パンにTシャツ、家内は息子のお古のTシャツに大きめのサンダル。
なんともみずぼらしいような軽装であったから、客観的に見れば場違いな闖入者が迷い込んだといった図であっただろう。
が、ボロは着てても心は錦というとおり、主観と客観は相容れない。
わたしたちの目で見れば、満ち足りた日常がそこのけそこのけと威勢よく、我が物顔で闊歩していたのだった。