KORANIKATARU

子らに語る時々日記

強靭化の道をぼちぼち行くのだろう


コカコーラから電話がある。
300円を返金しますという。
聞けば長男の話であった。

未明の駅、長男が自動販売機に150円を投入しリアルゴールドのボタンを押した。
出てきたのはリンゴジュースだった。

試験期間中である。
リアルゴールドでシャキッとしたい。
さっきは押し間違えたのかもしれないと眠い目をこすりつつ、再度150円を投入する。
指差し確認しつつ、狙い定めてリアルゴールドのボタンを押した。
今度こそ。

そして出てきたのはまたしてもリンゴジュースであった。

電車が来るまでにまだ時間がある。
長男はリンゴジュース2本を携えホームの階段を降り改札口に向かった。
これはリアルゴールではない、と駅員さんに掛け合う。

しかしジュースの自販機は駅員さんの守備範囲ではなかった。
長男はリンゴジュースを駅員に預け返金の手筈を彼に託す他なかった。

掲げられた商品と出てくる商品が異なる。
巷ではありふれたことである。
多くは、まあいいか、と出てきた商品に気持ちを切替え自己をなだめる。
これ、ちゃうやろ?と正面切って相手を糺したり、話が違うではないかと食ってかかる人は稀だろう。

私ならそのままリンゴジュースを2本持ち帰ったことであろう。
私とは異なる学びの環境のなか、長男が一端の意思決定や状況判断を行い一丁前の振る舞いを身に付けていく。

他愛ない自動販売機のエピソードからそのようにうかがえ、その後学校の門をくぐる背中を思い浮かべ、いずれ親がなくても平気で生き延びていくであろう頼もしさのようなものを感じるのであった。
いま、彼の人格形成において最大限の影響を果たしているのは間違いなく学校であろう。


春間近、3月を手前にしてインフルエンザ発症者続出で二男の学校が学年閉鎖となった。
二男についてはちゃんと予防接種もしておりインフルエンザは免れている。

が、いい機会であると家内に勧められ、わしお耳鼻咽喉科での健康チェックに二男が赴いた。
いよいよ塾では新6年生のカリキュラムが始まっている。
相当にハッパかけられ、勉強の負荷は並大抵ではないようだ。
体調管理が最も重要になる。

健康そのものの二男を連れ、久方ぶりにみずきの湯へ向かう。
屋外の湯船で肩並べ、しばらく無言で過ごす。

ぐっと秘めた闘志のようなもの、何か張り詰めた強い気のようなものを感じる。
それについては何も触れず黙って湯に身をひたす。

唇を真一文字にし塾へと向かう二男の横顔を思い浮かべる。
塾へ一歩入れば叱咤激励がやまず切磋琢磨が終わらない。
間違いなく二男は強靭化のプロセスに入っている。


私の左側に長男の姿がまざまざ浮かぶ吹き出しがあり、右側の吹き出しには二男が見える。

子を持つ以前のはるか昔、青春の青二才の頃合、誰かと「ともにある」といったような感覚を知ることはなかった。
せいぜいA子ちゃんやB子ちゃんのことを思い浮かべるくらいであり、だがしかし、これは吹き出しに出現するようなリアルさからは程遠く、どこか遠い世界の南の島の砂浜の光景、といったようなものであった。
当然、その砂浜に私の姿はない。


塾で知り合ったママ友と話し込んだのだという家内と合流して家路につく。

なぜだか意気投合したのだという。
聞けば聞くほど、お互いの境遇が似通っていた。
子はともに男子二人のやんちゃくれ。
長男はともに受験を終え、いまは二男にかかっている。
何か共感するようなものを感じ、各々の長男の学校について情報交換する。

そのような話を聞きつつ、商店街で買い物してから電車で帰る。
家内の話はいつまで経っても終わらない。

そして、家内の話を聞きつつも、長男は必ず私の左側にいて二男は必ず私の右側にいるのであった。