KORANIKATARU

子らに語る時々日記

お金になるなら何でもいいというものでもないだろう。

仕事柄、世間の厳しい実相を垣間見る機会が少なくない。
まだまだこれから、体力気力は充実しているのに給料が頭打ちになる。
小さな会社に転籍となる。
定年を迎える。

息子や娘の教育に当分お金が必要で、何とかなると思っていたのに何とかならず、いよいよ局面が厳しさを増す。
パートナーにも大車輪で働いてもらうほかなくなる。
職種や時給など贅沢は言えない。
雀の涙でもかき集めないことには家計が成り立たない。

そんなときふと目に入る。
あなたでもできる。
独立開業を支援する。
打出の小槌に興味はないか。

マニュアルはたったの30万円。
セミナー受ければ資格授与、しめて60万円。

これでお金の労苦から解き放たれるかもしれない。
パートナーと互いに顔を見合わせる。
何か明るく前途が開けるかのよう。

とても軽い気持ちで負担できる額ではないが、何とかならないこともない。
明日のため。
そう思えば高くはない。

大半の者にとって打出の小槌は単なる小槌でしかないのではないかという冷静な眼は失われている。
窮地の次にはチャンスが巡る。
そのようにしか思えない。

なけなしのお金がはたかれ、そして、抱える必要もなかった苦悩をさらに一つ二つ彼ら彼女らは背負い込むことになる。
このような構図を四字熟語で表せば、自己責任。
浅はかに夢見た彼らが悪いのだ。
世間ではそう捉えられる。

一方で、夢を売る側は笑いが止まらない。
小ウソもえくぼ。
額に汗することなく、一般人の月給単位の額が通帳に次々振り込まれる。
思わずにやけ、にやけた分だけお金は軽くなり、捻出する側の必死な思いやそのお金の重さについて思う事は一切ない。

あなたでもできる。
マニュアルどおりにすれば売り上げ倍増。

そんなことは嘘っぱちだが、夢に脚色は不可欠だ。
彼ら彼女らは喉から手が出るほど夢が欲しい。
化粧あってこそ映えて見え、夢が色鮮やかとなるのであるから、要はウソも方便、彼ら彼女らのためにすることである。

いいことをしているのだと確信の念すらわき上がってくる。
彼らの笑いは止まらない。

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